
三谷作品らしい楽しい枝葉のエピソードと遊び心が満載で、且つ次から次に登場する超豪華な大所帯の役者陣が繰り広げる抱腹絶倒の法廷劇。
まさにキャッチフレーズ通り‘笑えて泣ける’映画になっています。
三谷監督が敬愛する1950~60年代アメリカ映画のロマンチックコメディ風オープニングタイトルバックが洒落ていて、早くもワクワクさせられる。
冒頭で、この映画の軸となる殺人事件の様子が描かれ(その場所が時代がかった洋館というあたりもいい)いきなりあの人気女優が死ぬ!
次には主人公であるエミの自宅へと場面は変わる。
寝坊してドタバタと支度を始めるも、髪はボサボサで化粧っけはゼロで地味~~なスーツ姿。
その際、亡くなった父親の写真の隣にフランク・キャプラの『スミス都へ行く』のDVDが立てかけてあるのがなにげにチラリと映るのだが、この作品が後に重要な意味を成してくるのです。
それからは、ホラー、サスペンス、ハートフル、コメディ……と色んな要素がテンコ盛りのサービス精神満載のストーリーが展開されていき、最後まで全く飽きさせない。
とにかく登場人物たちが、みんな凄く魅力的!
主人公のエミ役の深津絵里の『悪人』とは180度違うコメディエンヌぶりはかなり笑えるし、クルクル変わる表情もとてもキュート。
法廷シーンでは地味なスーツで通すも、私服や部屋着はちょい派手で可愛いのだ!
ちなみに私服は伊勢丹で買っているみたいです(笑)。
そしてこの映画のもうひとりの主役が、西田敏行演じる落ち武者の幽霊・六兵衛さん。
最初はゾンビみたいなおどろおどろしい形相で登場するも、徐々に人間っぽい雰囲気になっていく変化が面白い。髪型を気にしたりしてね(笑)。
武士言葉で話していたかと思ったら突然、「~~じゃん!」なんて現代用語も使いこなすし、ファミレスでもフツーに「カルボナーラ」を注文……(ただ幽霊なので食べることは出来ず、匂いだけで食べたつもりになるんだけれど)と、421年前の人間とは思えないほど21世紀に馴染んでいる(笑)。
これは、客がつけっぱなしのテレビを年中観ているから、いつの間にか現代の情勢に詳しくなってしまったから……らしい(笑)。
エミのボス・速水役の阿部寛は、見事な(?)タップダンスを披露。(でもラストのタップダンスは、ちょっと切ない)
人生最期の時を迎えようとしているというのに、エミの頼みをちゃんと聞いてくれる律儀で心優しい人物!?
エミ、六兵衛と法廷で対峙する小佐野役の中井貴一も好演。
六兵衛が引き起こす超常現象を「トリックだ!」と真っ向否定。
ところが……この小佐野、実は六兵衛がちゃんと見えていたのだ!
それをエミに見破られるくだりは、爆笑ものです。
ところで~「超常現象なんかトリックだ!」と豪語する小佐野に対し、弁護側に控えるは速水役の~~そして『TRICK』の上田次郎こと阿部寛。
これって、なにげないオマージュ?(笑)。
(そういえば、矢部謙三も出てるし


この主要カルテット以外にも、濃いキャラが続々と登場!
六兵衛について研究する歴史学者で六兵衛の子孫でもあり、慰霊碑建立に力を注ぐ木戸健一役の浅野忠信。
殺された鈴子、その双子の妹・風子の二役で、悪女ぶりが怖いくらいにハマっている竹内結子。
若くして亡くなったエミの父親で彼女の目標であり、心の支えでもある輝夫役の草剪剛。
ラストでハーモニカを使ってエミと会話をするシーンは、泣けます。
他にもファミレスのウエイトレス姿が激カワの深キョン、金髪ストリッパーの篠原涼子、霊界からの使者で‘キャプラ好き’の小日向文世、売れない役者で、一世一代の熱演を六兵衛に邪魔されてせっかくのアップを台なしにされてしまう佐藤浩市、胡散臭い陰陽師で最後には月まで飛ばされてしまう市村正親、小心者の被告人の‘愛は勝つ’KAN、なんと深津絵里の恋人役で後に結婚することになるTKOの木下(大抜擢!)、金田一耕助シリーズに出てきそうな旅館の女将で、三谷作品には欠かせない戸田恵子、オールバックに口ヒゲが妙にイヤラしい山本耕史、変な髪型をした医師の唐沢寿明など……もの凄いメンツが勢揃い!
そしてそして~忘れちゃならないのが、第二の落ち武者(?)で、「こう見えても髪のセットに1時間かけてるんですから」のタクシー運転手・生瀬勝久。(とうとう矢部謙三がヅラを脱いだ?

生瀬さん、メチャメチャ笑わせてくれます。
全編に笑いに満ち溢れた映画なれど、ちゃんと泣けるシーンも用意されている。
ラストシーンでの……六兵衛からエミに贈る最高のサプライズはもちろんホロリとなるところだけど、実は自分はここが涙のツボではなかった。
もう泣けて泣けてしかたなかったのは~~小佐野と愛犬との再会シーン。
六兵衛が見えているのにも関わらず、頑なに心霊現象を否定し続ける小佐野に対して、エミと六兵衛は事故死した小佐野の愛犬を‘あの世’から連れてくるのだ!
「お前、会いにきてくれたのか!いつも車には気をつけろって言ってたろ。よしよし、さあ、おいで!」
何よりも大切だった愛犬をおもいっきり抱きしめ、嬉しそうにじゃれあう小佐野。
これ、可愛がっていた愛犬を亡くした経験がある者にとっては、号泣必至のシーンかと。(中井貴一の表情も素晴らしい)
また、三流弁護士のエミの成長物語でもあり……六兵衛さんの力を借りて難事件に挑み、彼女の前に立ちはだかるエリート検事の小佐野と真っ正面から渡り合い、クライマックスでは、真犯人と法廷で対決!
この時のエミの凛とした佇まいは、痺れるくらいステキです。
それと最後の最後にちょっとしたお遊びも。
六兵衛が‘THE END’を吹っ飛ばし~~「やっぱ、これでしょ!」と画面の上からドーンと降ってくる……‘完’の文字。
そして映画を観ている観客に向かって「どうもありがとうございました~~さよなら~~!」と手を振る六兵衛さん。
思わずニコニコしてしまうエンディングです。
(エンドロールでのオマケ写真も楽しい)
三谷監督曰く、
「映画館へ来たお客様にその一時だけは日常から離れ、目一杯笑って元気になって帰ってもらいたい」
まさにその通りに、目一杯笑って、目一杯楽しませてもらいました。
『ステキな金縛り』……ステキな映画でした。