
夢にも挫折し、つまらない日常を満然と生きていた甘ったれフリーターが、生と死が隣り合わせの世界で生きるスマグラーの仕事を通して変化していく様を描くバイオレンス・アクション・ムービー。
凄まじい暴力描写の連続の中に、ダークな笑いを盛り込むという……全編を通して緊張と緩和、恐怖と笑いが完璧にミックスされていて、全く飽きさせずに一気に突っ走る‘石井ワールド’全開の痛快作!
冒頭からグイグイ引き込まれる。
チンピラコンビが待つホテルの部屋に、ヤクの取引のため手下共を引き連れて入ってくる田沼組長。
穏やかな表情からいきなりブチ切れ出したかと思いきや、また穏やかになり、と間髪入れずまたもやブチ切れる……と情緒不安定も極まれりの田沼にビビりまくるヤク売人のチンピラ。(このシーンはかなり笑える)
とそこにユラリとやってくる……チャイニーズマフィアの背骨と内臓。
熱り立ち拳銃を構えるヤクザたちに対し、背骨は表情ひとつ変えずにヌンチャク攻撃で、頭をかち割りぶっ潰していく!
そして最後に残った田沼の首を斬り落とし……その後、コンビニで、
「至急クール便で頼む。品名は……」
「メロンでいいんじゃねえか。あ、あとメガネな」
と田沼組に送り付けるのだ。
ここから田沼組とチャイニーズマフィアの抗争が勃発し、やがては砧らスマグラーのメンバーがそれに巻き込まれ……予測不可能、やりたい放題のハチャメチャな展開に突入していく!
最大の見せ場は、背骨の代役として田沼組に運び込まれた砧が河島から執拗な拷問を受けるシーン。
何たってこの河島は拷問が趣味なのだ!
拘束着を着せられ、椅子に縛り付けられた砧を前に、嬉しそうな河島。
「殺すなよ」
と幹部から注意されるや、
「大丈夫。簡単には死なないようにこれ用意してきたから」
用意してきた‘これ’とは……なんと点滴!
弱ったら点滴を打って、またいたぶるつもりなんだから常軌を逸している。
頭に布を被せて恐怖心を煽ってから、ひたすら殴る蹴る……が、こんなのはまだまだ序の口。
「悪いんだけどさ、出てってくんないかな。ここからは側に人がいると気が散るんで。こいつと二人だけにさせてくれ」
と、幹部らを追い出し……「さて、これからが本番だ。死ぬなよ」
そして、イロイロな拷問グッズを喜喜として取り出すのだから怖い。
しかも一旦、姿を消し着替えまでしてくるのだから恐れ入る。
して、その衣装は……上が軍服、下半身はなぜか紙オムツ。
もうワケが分からない(笑)。
でもって延々とエグい拷問は続く、しつこいくらいに続く、続くったら続く。
だって河島は、‘拷問命’のイカレ野郎だから


これでもか、これでもかと行われる常人には考えもつかないような拷問の連続に砧は断末魔の悲鳴を上げ、それを聞いた河島はますますハイテンションになり、狂気ワールドへトリップ!
「まだまだ続くよ~~~次は~~」
もう砧は肉体も精神もボロボロの状態に追い込まれ……遂には極限状態に達し、髪の毛が真っ白になってしまうのだ!(『あしたのジョー』のホセ・メンドーサか、お前は!?)
ところが、何者でもない男が何者かになる……砧がクライマックスで炸裂させる凄まじい形相と大逆転劇は、最高の興奮とカタルシスを味わえること間違いなし!
とにかく個性的で危なすぎる(完全にいっちゃってる)キャラクターが勢揃い!

妻夫木聡演じる主人公の砧涼介は、小心者でウダウダうじうじしている、情けなくてカッコ悪い超ダメダメ野郎。
(不摂生三昧の雰囲気の役作りのためか、妻夫木の顔はマジでむくんじゃってる)
殴られては泣きベソをかくし、ブリーフ姿にされてイジメられた過去があるし、簡単に土下座はするし、優しすぎる性格が裏目に出るしの全然、使えない男。
まあ一見、普通のあんちゃんようではあるのだが、実はかなりいっちゃってる男でもあるんですね、これが。
主人公なのに、ただ右往左往するばっかしの能無しヘナチョコだけれど、クライマックスで爆発させる‘成り切り’ぶりは、激カッコいい!
永瀬正敏演じるジョーこと花園丈の男気あふれるキャラにも注目。
坊主頭にヒゲ面で(驚くくらいキム兄にソックリ

詰ってばかりいるものの、実は砧のことを彼なりに気にかけてもいる。(根は仲間思いの熱血漢?!)
万事休すの危機を逃げることなく立ち向かって切り抜けた砧に人間的な成長を見た彼は、多額のバイト代を手渡して砧をスマグラーから解放し表の世界に帰るように促す……という優しい一面を最後の最後で見せる。
渋い!痺れるぜ、ジョー!
石井作品常連、ジジイ役の我集院達也は、今回は眉毛がつながってない!(笑)。
口も行動も軽いお調子者でヘマもするが、いざという時の自分の役目はきちんとわきまえており、なにげに頼りになるオッチャンだ。
スマグラーを仕切る山岡役の松雪泰子。
メガネっ娘&ゴスロリファッション&ツンデレキャラは、一部マニアにはたまらないものがあるだろう?
クールで何があっても動じない肝っ魂ぶりはハンパない。
河島がコインをジャラジャラさせつつ握った両手を差し出し、
「どっ~っちだ?」
「……こっち?」
「どっちだっていいんだよ、バカ野郎!」
と(理不尽すぎる

「壊れたメガネ代、別枠で請求しとくからね!」
強い女!
背骨役の安藤政信も超強烈!
『バトルロワイヤル』での悪役も印象的だったが、今作ではそれを遥かに凌駕する悪役だ。
背骨は‘伝説の凶手’と呼ばれる凄腕の殺し屋で、背骨に添って背骨の刺青があり、顔や身体には無数の傷痕。
戦闘ではヌンチャク、または素手で仕留める。
毒を盛られても生き延びるタフさと、ショットガンの弾をも縦横無尽に躱すという超人的な身軽さも併せ持つ。
(『エクソシスト』のリーガンを彷彿とさせるスパイダーウォークまで披露!)
ブルース・リーとターミネーターを足して2で割ったような……無表情&無感情の最強の殺し屋だけれど……ラストで砧に対して初めて人間らしい感情を垣間見せる。
泣かせるぜ、背骨!
組長の若妻役、満島ひかりもメチャメチャいい!
強面の組員共を顎で指図し、ドスの効いたタンカも惚れ惚れするほどのカッコよさ。
それに何たって最後に背骨にとどめを刺したのは、彼女なのだ!
その満島ひかりがオドオドする妻夫木聡に対して、強い命令口調で見下して話すシーン……これって、『悪人』の時の関係と酷似するものが(笑)。
やっぱ満島ひかりは、性格が捩曲がった女の役が似合う。
そしてこの映画、最大にして最恐の超超超ぶっ飛びキャラ、パンチパーマがイケてる(?)ヘンタイ拷問マニアの河島。
高嶋政宏のキレッぷりは、異常どころの話じゃない。(ほとんど○○○イ)
MAXまで振り切れての怪演!(これがまた笑っちゃうくらいハマっている)
妻夫木を拷問するシーンもエグいが、チンピラを拷問するシーンも相当エグい、且つ大爆笑もの。
散々、殴る蹴るした後、やおらコブシ大の石をネクタイに巻き始め……頭を殴るのかと思いきや、なんと急所に一撃!
痛てっ~~痛すぎる( ̄□ ̄;)
しかもそれを何十発と繰り返すのだ!
すると子分が、
「あのぉ、死んじゃいましたけど」
「……あ!」
「バカ野郎!居場所聞き出す前に殺してどうすんだよ!ボケ!」
と怒り心頭の幹部に、
「すいません……」
狂気とオバカさが同居しているサイコーに愛すべき(?)キャラの持ち主の河島に拍手喝采を!?
それにしても『探偵はBARにいる』の高嶋弟といい、この作品の高嶋兄といい……高嶋兄弟は、これからどこに向かおうとしているのか!?(笑)。
このように、何本もスピンオフ作品が作れちゃいそうなくらい、個性的すぎるアクの強い危険な人物ばかりが登場してくる。
あとワンシーンだけ登場して、イヤ~~な雰囲気を撒き散らす松田翔太も印象に残る。(役名は警官Aだ!)
その松田翔太、なんと親子でこの映画に出ているのだ!
砧がDVDで映画を観ているシーンでスクリーンに映し出されるは……松田優作のアップ!
『野獣死すべし』での……狂気の表情の優作が拳銃を自らのコメカミにあてる……あの有名なシーンが使われているのです。
(時空を超えた夢の親子共演?)
石井克人監督の凝った映像と激しい演出でのバイオレンス描写は圧巻。
ハイスピードカメラを駆使したアクションシーンや、ストーリーが進むに従って変化していく妻夫木聡の表情も見もの。
また、クセモノ俳優たちが個性的なメイクや衣装で、完全に役柄を楽しんじゃってる雰囲気が伝わってくるのもいい。
ツッコミどころ満載のストーリーや、漫画チックなCGアクションなど、確信犯的に映画をぶっ壊し、「ついてこれる奴だけついてこい。嫌いな奴は観なくて結構」みたいな石井監督の気概と観客への挑戦が窺い知れる内容です。
冒頭10分で‘好き嫌い’がはっきりと別れるのではないだろうか?
嫌悪感を覚えて席を立ちたくなるか、はたまたスクリーンにかじりついて夢中になるか……。
石井監督の『鮫肌男と桃尻女』や、三池監督の一連のバイオレンス作品、またはタランティーノ、サム・ペキンパー作品などが好きな方には、特にオススメかなと。
ただ暴力描写は多いけれど、奇跡の(?)PG-12指定なので安心して観られます!?