
【監督】
李纓
“誰も知らなかった歴史がここにある”

日本在住の中国人映画監督・李纓が1997年から10年間にわたり靖国神社を取材した映像を収めたドキュメンタリー。
靖国刀の最後の刀鍛冶職人と、主に終戦の日を中心とした靖国神社の境内の模様が、ナレーションなしでひたすら映し出される構成。
靖国神社には、もうひとつの日本の歴史がある。
それは日本人にとって複雑な思いを抱かせるアジアでの戦争の記憶をめぐる歴史。
日常は平穏そのものの靖国神社も、毎年8月15日になると、そこは奇妙な(?)祝祭的空間に変貌。

大きな国旗を掲げ、英霊や天皇を粛粛と称える者。

旧日本陸海軍の軍服に身を包み、ラッパの音に合わせて行進してきて「天皇陛下万歳!」と猛々しく叫ぶ集団。

ちょっと的外れな主張を述べ立て星条旗を掲げるアメリカ人紳士。
(彼に賛同する者もいるが、逆に反発する者から「毛○が何しに来た!アメリカに帰れ!」と罵倒もされる)
境内で催された追悼集会に抗議したため中国人と間違われて、参列者や一般客に袋叩きにされて大流血する若者。
(彼はボコボコにされても執拗に抗議を繰り返し、最後は警察に連行されていく)
日本政府に「勝手に合祀された魂を返せ!」と激しく迫る台湾や韓国の遺族たち。
「南京大虐殺は冤罪だ」と主張し、署名をつのる団体。
戦争で死んだ肉親について井戸端会議をするオバチャンたち。
SPに護衛されて参拝する小泉純一郎首相(当時)。
集会で力強く挨拶する石原慎太郎都知事。
‘英霊’という名の姿形がないものをめぐって、称える者も反対する者も熱くなる……ある意味で滑稽にすら感じる(思わず笑ってしまうシーンも多数)そんな狂乱の様相を呈する靖国神社の記録映像から、戦争の記憶が観るものに多くを問いかけながら鮮やかに甦ってきます。
「二度と平和を侵してはならない」という思いを胸に深く刻みながら、日々の暮らしが眠る夜の東京の空撮で映画は静かにエンディングを迎える。
今こそ靖国神社に冷静に向き合わなければならないことを強く訴えかけてくると同時に‘反戦’についても深く考えさせられます。
この作品は、靖国の歴史やイデオロギーを解説するのではなく、そこに‘集い’‘行動’する人々の姿をただただカメラに収め、結論は見るものに委ねるという手法を取っている。
中国人監督の作品ではあるもののテーマは‘反日’というよりも……根底にあるのは‘反戦’。
実際に‘靖国’と聞いてもいまひとつピンとこない問題でしたし、さほど関心もありませんでしたが、知っているようで知らない靖国の一面を垣間見て衝撃を受けました。
ちなみに自分の祖先も靖国で眠っている……。
『靖国』を真っ向から捉えた凄いドキュメンタリー映画でした!
