
【出演】
宮沢りえ、加瀬亮、宇崎竜童、田口トモロヲ、中原ひとみ、石橋蓮司、石橋けい、諏訪太朗、豊原功補、鈴木砂羽、樋口可南子、原田芳雄
【監督】
三枝健起
“時代に翻弄されながらも、映画館を守り続けたふたりの純愛……優しい奇蹟の物語”
‘突然ではございますが、昭和25年の開館以来、半世紀以上にわたって地元の皆様に愛され親しまれて参りましたオリヲン座は、誠に勝手ながら今秋をもちまして閉館いたす事と相成りました’
そんな招待状が、ゆかりのある人々の元へ送られてくる。
時は昭和32年、京都にある映画館・オリヲン座。

昭和25年の開館以来、毎日、たくさんの人で賑わっていた。
経営しているのは、映写技師の豊田松蔵と妻のトヨ。
ある日、一人の青年がオリヲン座にやってきた。
映画を観たくて仕方がないが……。
「今からだと『二十四の瞳』は途中からですよ。『君の名は』は、最初から観れますけど」
、
しかし、その青年は入場料金の75円すらない様子。
トヨはその青年を「途中からだからお金はいいわ」と、ただで入れてやった。
上映が終ると、青年は…
「僕は仙波留吉といいます。ここで働かせてください。お願いします!」
と頼み込むのだった。
こうして留吉は松蔵の弟子となり、熱心に働き……やがて映写技師となる。

そんなある時、松蔵が病に倒れて急死。
留吉は松蔵の志を引き継ぎ、トヨとオリヲン座を守ることになる。

しかし、周囲の人々からは‘師匠のかみさんを寝取った若主人’、‘不義理な女将’などと陰口を叩かれて……。
「松蔵さんが不憫だ」
しかもテレビの普及が進み、と同時に映画産業が斜陽になり始めてしまう。
あれだけ賑わっていたオリヲン座も客席はガラガラで、二人は苦しい生活を強いられることに。

貧乏に耐えながらもひたすら映画を愛し、映画の灯を灯し続けるトヨと留吉。
そして何よりも純粋にお互いを思いやり、愛し続けたのだった。

一方、そんなオリヲン座を一番の遊び場としていた幼い子供・祐次と良枝がいた。

二人は毎日のように映写室の小窓から数々の映画を覗いて成長。
それぞれ家庭に問題を抱える二人にとって、トヨと留吉は父親と母親のような存在であった。
そして……大人になり、結婚して東京で生活を送っていたが、いつしかお互いを思いやる心を見失い、別れを決意していた祐次と良枝。
そこに、まるで何かを予感させるが如く届いた一通の招待状。
「一緒に行ってみない?オリヲン座の最終興行」
オリヲン座……そこは優しい奇蹟の宿る場所だった。

京都を舞台に、激動の時代に翻弄されながらも老舗の映画館を守り続けた男女の純愛と奇跡を描くヒューマンドラマ。
貧乏に耐えながら映画館を守り続け、映画への灯りをともし続けた二人の固い絆が感動的!
昭和30年代の映画黄金時代から、映画が斜陽になり、現代に至るまで……亡き夫から受け継いだ映画館を守る妻と映写技師の純愛が丁寧にを描かれてゆきます。
劇中、オリヲン座で上映されている映画として流れるのは、『無法松の一生』『二十四の瞳』『幕末太陽伝』『乳母車』『丹下左繕』などの名作。
オリヲン座の最終興行のシーンは、まるで和製『ニュー・シネマ・パラダイス』。
病のため余命いくばくも無いトヨが映写室で見守る中、観客に向かって留吉が挨拶を。
「最後にかける映画は、先代が愛していた『無法松の一生』です」
満員の観客が阪東妻三郎の演技に見入る。
その頃、映写室のトヨと留吉は、最期の言葉を交わす。
「オリヲン座を守るために、ずっといてくれたのね」
「違います……トヨさんが……好きだったから、ずっとおったんです」
その言葉を聞いたトヨは幸福そうな表情を残して静かに息を引き取るのです。
オリヲン座の終焉と共に、この世を去るトヨの姿に涙。
宮沢りえが、愛する男性(松蔵と留吉)を陰で支える献身的で健気な女性を好演。
映画人のはしくれとして映画を愛し、映画を生きがいにしていた松蔵と留吉を演じた加瀬亮、宇崎竜童も素晴らしい。
いかにも昭和的な映画館の外観、ロビー、客席のノスタルジックな雰囲気も見所のひとつの……‘映画愛’が伝わってくる秀作でした。