
【出演】
柳楽優弥、YOU、北浦愛、清水萌々子、木村飛影、韓英恵、加瀬亮、平泉成、串田和美、岡元夕紀子、木村祐一、遠藤憲一、寺島進
【監督・脚本】
是枝裕和
“生きているのは、おとなだけですか”
とある2DKのアパートに、スーツケースを抱えた母親・福島けい子と息子の明が引越してくる。
アパートの大家には、
「主人が海外に長期出張中の母子二人です」
と挨拶をするが……実はけい子には明以外の子どもが3人もおり、スーツケースの中には次男の茂、次女のゆきが入っていた。
長女の京子も人目をはばかり、こっそり家に辿り着く。
子ども4人の母子家庭……事実を告白すれば家を追い出されかねないと、嘘を付いたのは、けい子の考え出した苦肉の策であった。
その夜の食卓で、けい子は、
「大きな声で騒がない」
「明以外はベランダや外に出ない」
という新しい家でのルールを言い聞かせる。

子どもたちはそれぞれ父親が違い、出生届すら出されておらず、学校に通ったことさえない。
当面はけい子がデパートで働き、母の留守中は明が弟妹の世話をし……家族5人は彼らなりに幸せな毎日を過ごしていた。

そんなある日、母は明に……
「今、好きな人がいるの」
「また?」
「今度こそ結婚することになれば、もっと大きな家にみんな一緒に住んで、学校にも行けるようになるから」
「……」
ある晩、遅くに酔って帰ってきた母は、
「明のお父さんは羽田の空港で働いていたんだよ。京子のお父さんは……」
それぞれの父親の話を始める。
寝ているところを起こされた子供たちも、楽しそうな母親の様子に自然と顔がほころんでゆく。
ところが……翌朝、明が目覚めると母の姿は消えていて……20万円の現金と‘お母さんはしばらく留守にします。京子、茂、ゆきをよろしくね’と記されたメモが残されていた。
こうしてこの日から、誰にも知られることのない4人の子どもたちだけの‘漂流生活’が始まり……。

けい子が姿を消して数ヶ月。
渡された生活費も底をつき、子どもだけの生活に限界に……料金滞納から電気・ガス・水道も止められる。
そんな中、4人は遊びに行った公園で不登校の女子高生・紗希と知り合う。

兄弟の凄惨な暮らしぶりを見た紗希は協力を申し出、援助交際で手に入れた現金を明に手渡そうとするが、その行動に嫌悪感を抱いた明は現金を受け取らない。
だが食料はなくなり、明は知り合いのコンビニ店員から賞味期限切れの弁当をもらい、公園から水を汲んでくるなどして兄弟たちは一日一日を必死に生きのびることになる。
ある日、言うことを聞かない妹弟達と大喧嘩し、鬱憤の爆発した明は衝動的に家を飛び出してしまう。
飛び出した先で、ひょんなことから少年野球チームの助っ人を頼まれ、日常を忘れて野球を楽しむが、家に戻った明が目にしたのは……倒れているゆきと、それを見つめながら呆然と座り込んでいる京子と茂の姿だった。
ゆきは椅子から落ち、そのまま目が覚めないという。
病院に連れて行く金も薬を買う金もなく、明は薬を万引き。
兄弟は必死で看病をするが……翌日、ゆきは息絶えていた。
明は紗希を訪ね、
「ゆきに飛行機を見せたいんだ。あの時の金を貸してくれないか?」
兄弟達と紗希は、スーツケースの中にゆきの遺体と大量に買い込んだアポロチョコを入れる。
明と紗希は、ゆきの遺体が入ったケースを運びながら電車に乗り、羽田空港の近くの空き地に穴を掘り……そこにゆきをを埋める。
そして、無言でマンションに戻るのであった。
ゆきがいなくなった明と京子と茂と紗希の……誰も知らない生活が再び続いていく……。

子供置き去り事件の実話を題材に、母の失踪後、過酷な状況の中で幼い弟妹の面倒を見る長男の姿を通じて家族や周辺の社会のあり方を問いかける人間ドラマ。
あまりにも無責任な母親に捨てられるという過酷な運命に巻き込まれながら、それでも4人の子供は自分たちだけの小さな世界で、自分たちだけのルールに従って逞しく生きて行く。
が、危なっかしくも何とかバランスを保っていた世界は、外の世界との接触によって徐々に崩壊してゆきます。
母を想う無垢な心、外の世界に対する憧れと不安、そして次第に苦しくなってゆく生活に対する焦燥感。
子供たちの言葉にできない心の叫びは、胸に突き刺さり、力を合わせて助け合いながら精一杯に毎日を生きる4人の姿は、哀しく切ない。(でも、微笑ましくもある)
是枝監督独特のドキュメンタリー的な手法の演出によって、そこには物語と共に、演技を超越したリアルな子供たちの成長が刻まれています。
子供たちの繊細な感情は、手の表情、真っ赤なマニキュア、玩具のピアノ、キュッキュッサンダル、カップラーメン、アポロチョコ……といったディテールの積み重ねによって表現され、狭い2DKのアパートで繰り広げられる密室劇をある時は情感豊かに、ある時はスリリングに描き出す。
それは、特殊な環境に生きる子供だけでなく、幼い頃に誰しもが経験したであろう楽しくて甘い記憶や切ない感情を呼び起こす。
温かい眼差しを向けながらも、それと同時に子供たちを取り囲み呑み込んでゆく厳しい社会にも焦点を当てています。
ゆきの大好物だったアポロチョコを大量に買い込み(彼女はひとつひとつ大切に食べていた)亡骸と一緒にスーツケースの中に入れるシーンはとても切なくて涙を誘う。
将来の希望も展望も全く見えないラストは、衝撃的です。