『青い車』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『青い車』


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【出演】
ARATA、宮崎あおい、麻生久美子、田口トモロヲ、水橋研二、太田千晶、佐藤智幸、中村義洋


【監督】
奥原浩志




“ただ、どうしようもなく、好き”




リチオは、子供の時の大事故で片目に大きな傷を負った。
その頃から、死に損なったような今の自分を子供の自分がどこからか見ているような気がしている。


片目の傷を隠すためにいつでもサングラスをしているリチオ。


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マチダが経営している中古レコード店に勤めながら、時々クラブでDJをしている。

自分でもよく分からない苛立ち、ただ何となくやり過ごす日々。


恋人の佐伯アケミとは、順調とも言えるし、倦怠ともいえる微妙な関係。

アケミには高校生の妹、このみがいる。彼女は自分のやりたいことが見つからないまま、大学受験を控えて釈然としない毎日を送っていた。


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ある日、このみとリチオは、街でばったり会う。

カフェで食事をした二人は、リチオの部屋へ。

「サングラスをとった顔が見たい」

リチオは自嘲気味に笑うと、ふいにこのみにキスをして……ゆっくりと外されるサングラス、現れた片目の傷。

「かけてないほうがいい」


アケミは、リチオの手首にある無教の傷に気付きながらも、いつも聞けずにいた。

「ずっと幸せだったらいいな」
「そうだな……」


誰にも言えない苛立ちを抱えたまま、毎夜不穏な夢に悩まされていたリチオは、
「もう会うのをやめよう」
と、このみに告げる。


そんな時、出張で熱海に向かっていたアケミが、交通事故で死ぬ。

リチオは、夜ひとりで青い車を走らせスピードを上げ……カーブに差し掛かると目を閉じ、急ブレーキを踏んだ。
ふと見ると、助手席には子供時代のの自分が。

リチオはもうひとりの自分に言う。
「教えてやるよ、あれからどんなことがあったか」


両手いっぱいの花束を抱えたこのみがリチオの前に現れた。その花束を海に投げるのだと言う。


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高遠道路を走る青い車の中で、このみは言う。

「ね、セックスしよう」


このみはリチオに告げる……アケミが事故を起こす前日、自分たちのことを姉にすべて話したと。

「だからって自分のせいだなんて思ってない。でも、苦しいよ。チクチクするんだ」
「心配すんな。俺がなんとかする」


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青い車はどこまでも走り続ける……。




既に失ってしまったものや、いま失われつつあるものを目の前に、いまを生きる男と女。その絶望の先に見えたほのかな希望としての不器用な恋と優しさを繊細に描きだすラブストーリー。



昔の事故で大きな傷を負いながらも、生きている自分への苛立ちと、突然の恋人の死。
それでも笑いながら生きてゆくしかないリチオの宙ぶらりんな絶望。

でも、生ぬるい感傷はなく、乾いた空気が広がっているだけ。
この先も否応なく続いてゆく毎日を、生きてゆかねばならない絶望とその絶望の先に見える……ほんのわずかな希望を胸にリチオは前進する決意を固めるのです。



キリキリと痛むような葛藤を胸の奥に抱えながら、曖昧な笑いで毎日をやり過ごそうとするリチオ。

アケミの妹であり、ふとしたことからリチオと関係を持ってしまうこのみ。
リチオヘの思いと揺れ、少女の持つ強さと危うさ、ある種のしたたかさをも持ち合わせている女子高生。

リチオの恋人アケミは、閉ざされたリチオの心に触れようと悩みながらも、優しさと明るさですべてを包み込む。


この3人の複雑に絡み合った人間模様が淡々と綴られてゆく中で、徐々にリチオの心の奥底に潜む闇が明らかになっていく。



ARATA、宮崎あおい、麻生久美子の好演が光る小品でした。