
【出演】
阿部寛、樹木希林、原田芳雄、夏川結衣、YOU、寺島進、高橋和也、加藤治子
【監督・脚本】
是枝裕和
“人生は、いつもちょっとだけ間にあわない”
ある夏の日。
横山良多は、妻と息子を連れて実家を訪れる。

かつて開業医を営んでいた父・恭平と、母・とし子が出迎えるが……。
父とそりの合わない良多は、絵画の修復士だが、今は失業中の身の上。
そのことを両親には話せず、久々の帰郷も気が重い。
さらに良多は結婚したばかり。その妻のゆかりは亡くなった前夫の子供・あつしを連れての再婚であった。
明るい姉・ちなみの一家も来て、横山家には久しぶりに笑い声が響く。

得意料理を次々こしらえる母と、相変わらず家長としての威厳にこだわる父。

家族が集まったのは……15年前に亡くなった横山家の長男・順平の命日だから。
医者の跡継ぎにと期待した長男に先立たれた父の無念、母の痛み、優秀だった兄といつも比べられてきた良多の父への反発心……それらは年月が経っても消えてはいかなった。
ちなみは、自動車の営業マンである夫をもつ専業主婦で、ふたりの子供に恵まれた暮らしを送っており、持ち前の明るさで器用に家族の間を取り持つ。
一方、子連れで再婚して日の浅いゆかりは、緊張で気疲れしてしまう。
老いた両親を訪ねる子供たちとその家族……一見ありふれた夏休みの風景。

それはいつものように過ぎるはずだったが……。

そんな中、良多は些細なきっかけから、親の老いを実感する。
ふと口にした約束は果たされず、小さな胸騒ぎは見過ごされてしまう。
人生は、いつもちょっとだけ間にあわないことに満ちている……。

ある夏の一日の家族を風景を切り取りることで、人生の喜びと哀しみが静かに浮かび上ってくるホームドラマ。
成人して家を離れた子供たちと、老いた両親。
特別な事件が起きるわけではない24時間の家庭劇には、家族の関係や歴史が深く刻みこまれていて、それがリアルに描写されていきます。
何十年も同じ屋根の下で暮らし続ける老夫婦、久しぶりに家族を連れて実家にやって来た息子と娘、そして15年前に亡くなった長男。
母親の手料理は昔となんら変わらないのに、家の内部や家族の姿は少しずつ変化している。
食卓を囲んでの何気ない会話の中に、家族だからこそのいたわりと反目が、ユーモラスに温かく、時にほろ苦い切なさをもって綴られる。
やがて、家族というものの愛しさ、厄介さ、人の心の奥底に横たわる残酷さが、浮かび上っていくのです。
父は頑固一徹で了見の狭さをもち、母は涼しい顔をして毒を吐く。
不器用な良多は、そこにいるだけで精一杯で気づいた時にはいつも出遅れている。
劇中で流れる「ブルーライトヨコハマ」の歌詞にあるように……‘歩いても 歩いても’いつもちょっとだけ間に合わない存在。
そんな家族の中では、器用な長女がぶつかりあう彼らの間を上手く取り持つも、実は自分の思惑はまた別にある。
夫婦、母娘、父と息子……それぞれの掛け合いの中、食卓を囲む和やかな風景には、思わずクスクス笑い。
どこかで必ず身近にいる‘誰か’が思い出されてしまうような……「こういうの、あるある!」と同調してしまうような……そんな感じ。
家族の佇まいや人物像、ひとつひとつの台詞が、ある時は笑いを誘い、ある時は胸に突き刺さる。
細部に至るまでがリアリティに満ちており、やがて浮かび上がる……人生が続いていくことに対するささやかな喜び、その裏腹にある哀しみには、心打たれました。
結局は両親との約束を果たせなかった良多。
「今度、坊主を連れてサッカー観戦に行かないか?」
「そのうちね」
「私は、息子の車に乗せてもらうのが夢なのよ」
「そのうち、いくらでも乗せてやるよ」
両親の何てことのない願いすら叶えてあげられなかった息子の胸中が、切ない。
何も起こらない……ドラマチックな出来事など全く何も起こらない……にも関わらず、なんと素晴らしい映画なのか!
小津作品風な雰囲気も漂う……現代版『東京物語』のような愛すべき作品でした。
あ、それから~ちなみ役のYOUがメチャメチャいい味を出しています。
ポロッと言う的を突いた台詞がかなり笑える!