
【出演】
国分太一、香里奈、松重豊、森永悠希、八千草薫、伊東四朗、青木和代、下元史朗、水木薫
【監督】
平山秀幸
“伝えたい……ただ「好き」という想い”
今昔亭三つ葉は、二つ目の落語家。
普段から着物を纏い、落語は古典だけと決めている。同期の噺家たちは時代遅れだと笑うが、変える気などない。
しかし、高座に上がっても客はまばらで、受けも悪く真打には程遠い。
師匠である今昔亭小三文の真似ばかりで、自分の落語を見つけられずにいた。
小三文が講師を務めるカルチャースクールの話し方教室に同行した三つ葉は、生徒の中のひとり、無愛想だが美人の十河五月と出会う。
ところが、講義途中で退室してしまう五月。
三つ葉は、すぐに追いかけて何故出て行くのか問い質すと……
「あの人、本気でしゃべってないじゃない!口先だけ」
戸惑う三つ葉は、思わず……
「それなら今度、自分が喋る生の落語を聞きに来い!」
と言ってしまう。
三つ葉の本名は外山達也。茶道先生であるの祖母の春子と二人暮し。
ある日、秘かに憧れている実川郁子から相談を持ち掛けられる。
大阪から引っ越してきた甥っ子が新しい小学校に馴染めず、苛められているというのだ。
落語を覚えて人気者になって欲しいと願う郁子の頼みを三つ葉は断りきれない。
二つ目が集まる寄席。
「すげえ美人が来てる!」と騒ぐ若手噺家。
高座に上がった三つ葉を、五月が客席から見つめている。
思わぬ珍客に頭が真っ白になってしまい、上手く話せず落ち込む三つ葉に、五月は……。
「ねえ、どうやったら喋れるようになるの?」
「……?」
「口のきき方!」
外山家に集まった郁子の甥・村林優と五月。
二人のために話し方教室を始める事になった三つ葉だが……。
「会話は苦手です」
と自己紹介もろくに出来ない五月と、関西弁で調子の良い事ばかり言う村林。
落語の「まんじゅうこわい」をやってみせてもほとんど反応はなく、三つ葉は今後が心配になる。

その教室の噂を聞き、怪しい男が訪れる。
巨体にサングラス、大きなマスク……見るからに怪しい。
ところが大の阪神ファンの村林が、言い当てる。
「湯河原太一やろ!代打男だった湯河原や!」
「え?元プロ野球選手?」
「そうや、‘元’湯河原や!」
「‘今’も湯河原だよ!」
「メッチャ下手な解説で全然、喋れへんねん。少しは上手くなったんか?」
「うるせー!」
引退して解説者になったものの、あがり症で超話し下手。それをなんとか克服したいと思っていたのだ。
しかし無愛想な五月、お調子者の村林、不器用な湯河原という組合せがうまくいくはずもなく……。

ひょんなことから五月とほおずき市へ行くことになった三つ葉。
別人のような五月の浴衣姿に見惚れるが、なぜか彼女は機嫌が悪い。
「ほおずきを買ってやるぞ」
「いらない!」
「なに怒ってんだよ?」
「怒ってない!」
「怒ってるだろ」
話を聞くと、去年のほおずき市に一緒に来た男にフラれたらしい。
「今年も一緒に来る約束をしてたんだけど……行かないのも癪だし。だから相手は誰でもよかったんだ」
静かに涙を流す五月に、かける言葉が見つからない三つ葉。

数日後、五月の実家のクリーニング屋に、ほおずきが届けられていた。
三つ葉からのプレゼントに、五月の顔からは笑みがこぼれる。
話し方教室はなんとか続いているが、湯河原はやる気がない。
それどころか村林の落語を「子供だましだ」と馬鹿にし、彼が応援する阪神の悪口を言う始末。
「それ、解説で言えば?野球中継も偉そうにやればいいじゃない」
「できるワケねえだろ!」
郁子と歌舞伎に行く約束をした三つ葉は、喜び勇んでチケットを用意するが……渡そうと思った日、彼女が近々結婚することを知ってしまう。
自分の想いを伝えられず、心にもなく祝福する三つ葉は、チケットをご祝儀としてあげてしまい、彼女が作ってきた妙な味の弁当をヤケ食いするのだった。
落語は上達しない。話し方教室は上手くいかない。しかも好きな女にフラれた!
どん底の三つ葉が向かったのは末広亭。
小三文の落語を聞いた三つ葉は改めて実感する。
「俺は師匠の噺が好きです。八代目小三文にはなれないかもしれない。それでも俺は喋ります!」
小三文から一門会の開催を聞いた三つ葉は、師匠の十八番「火焔太鼓」に挑戦することを決める。
そんな時、上方落語「まんじゅうこわい」を覚えた村林は、湯河原に見せつけてやると言う。
それを湯河原に伝えた三つ葉は、こうアドバイスを。
「毒舌でも経験があるからこそ話せる湯河原さんらしい野球の解説をしたらどうですか?」
が、逆に湯河原から、
「お前はどうなんだ?」
と問われてしまい……。
クラスのボス・宮田と野球対決をすることになった村林に、湯河原がバッティングを教える。
「ありがとう!これなら打てそうな気がするで!」
「阪神、好きなんだろ。逃げるな。好きなものから逃げると一生後悔するぞ」
五月も江戸版の「まんじゅうこわい」を覚え、村林と共に発表会をやる事が決まった。
三つ葉の一門会も近づき、それぞれが稽古に熱中する日々。
しかし、三つ葉は相変わらず自分の「火焔太鼓」をモノに出来ずにいた。
一門会まで話し方教室を休みたいと五月に伝えにきた三つ葉はこう訊く。
「ところで、なんで落語教室に来ているの?」
「みんな、本気でなんとかしたいって思ってる。今のままじゃだめだから、なんとかしようって……私もなんとかしたいから……」
そんな中、村林がいなくなったとの連絡が……野球対決に負けたショックかららしい。
皆で必死で探した末、外山家の押入れに隠れていた村林を見つけた三つ葉は、思わず手を上げてしまう。
屋台で酒に酔った三つ葉は、五月に教室をやめると言い出す。
「落語やったって性格なんて変わんないぞ。どうなりたいんだよ。好かれたいのか?」
「何を言っても嫌われない三つ葉さんのようになりたかった……」
そう告げて立ち去る五月。
いよいよ一門会の日。
二日酔いの三つ葉は寝坊して会場に駆け込む。
満席なのに体調は最悪だが、もう後には引けない。
舞台袖で深呼吸した三つ葉は、腹を据えて高座に向かって歩き出した!
ついに「火焔太鼓」を披露する三つ葉。
発表会「まんじゅうこわい東西対決」を控える十河と村林、そして湯河原……それぞれの気持ちは、本当の想いは伝わるのだろうか……。

情緒溢れる東京の下町を舞台に、不器用な人間たちが……お互いを想い、共に成長し、新しい一歩を踏み出そうとする人情と友情と愛情の物語。

日本人の奥ゆかしさと温かさにホロッときて、心にジワーッと沁みこむような……優しくて愛おしくて爽やかな傑作!
古典を愛するも、思うように腕が上がらずに伸び悩んでいる二つ目の落語家・今昔亭三つ葉。
そんな彼のもとに、「落語を、話し方を習いたい」と集まってくる三人の変わり者たち。
すこぶる無愛想で超口下手な五月、勝気なためになかなかクラスに馴染めない村林、毒舌でいかつい面相の元プロ野球選手・湯河原。
彼らは集まるごとに言い争い、落語も覚えずの劣等生。
そんな三人をまとめなくてはならない‘しゃべりのプロ’の三つ葉も、落語家としては、実力不足の落ちこぼれ。
ワケありの生徒たちと三つ葉とのふれあいを軸に、現代を生きる人間たちに欠如しがちな‘人と人とのコミュニケーション’の大切さや‘想いを伝えること’の尊さを真摯に、コミカルに、爽やかに描いていきます。
生徒たちが三つ葉に挑んでくる言動やそれを思うように受け止められない三つ葉の表情で、彼らが抱えているコンプレックスやプライドが浮き彫りになってくる。
その冷たく凍りついた心が少しずつ溶け出し、自信と勇気を持てるようになっていく姿に、こちらまで勇気が貰えます。
それと、三つ葉と五月の水上バスでのラストシーンが抜群にいい!
気持ちを言葉にすることはもちろん大切ながら、時には言葉のないコミュニケーションが一番心に響くということを教えてくれるのです。
‘想いを伝えることの大切さ’
落ち込んでたり、ムシャクシャしてたり、何となくつまらないなぁ……なんて時に、この作品を観れば、勇気と元気が注入されるのは間違いなし!