『八日目の蝉』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

某シネコンにて『八日目の蝉』を鑑賞。


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【出演】
井上真央、永作博美、渡邉このみ、小池栄子、劇団ひとり、田中哲司、森口瑤子、市川実和子、徳井優、風吹ジュン、平田満、余貴美子、田中泯


【監督】
成島出




“優しかったお母さんは、私を誘拐した人でした”


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1985年……どしゃぶりの雨の中で起きた誘拐事件。
犯人は父の愛人。
連れ去られたのは、私。 私はその人を、本当の「母」だと信じて生きてきた。



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会社の上司であった秋山を愛し、子供を身ごもった野々宮希和子。

しかし秋山には妻がいた。

「いずれ妻と別れるから、それまで待ってくれ」

産むことはどんなに望んでも決して叶えられないことだった。

気持ちの整理がつかないまま子供を諦めた希和子だったが、二度と子供を産めない体になってしまう。

そんな時、秋山の妻が子供を産んだ。一方には諦めさせ、一方には産ませる男の身勝手さ。

「別れる前に一目だけでも赤ちゃんを見たい。見れば諦めがつく……」

希和子は、夫婦の留守宅に忍び込む。

ベッドで泣き叫ぶ赤ん坊を抱き上げた時、赤ん坊は笑顔を向けた。

「薫……薫ちゃん……お母さんよ」

その瞬間、希和子はしっかりと子供を抱えて、雨の中を飛び出していた!

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秋山恵理菜は、21歳の大学生になっていた。

4歳で実の両親に会い、抱きしめられた時にはワケが分からず、顔を強張らせたまま……おしっこを漏らした。

「あなたは、生まれてすぐに世界一悪い女にさらわれたのよ。名前も薫なんかじゃなく、恵理菜という名前。そして私たちこそが正真正銘の家族よ」

が、実感が持てなかった。

それは父も母も同じことで、彼女をどう扱ったらよいのか戸惑い、良好な関係を築けずに悩み、次第に疲弊していった。

「あなたの顔を見ると、あの女を思い出す。どうして私ばかりこんな辛い思いをしなければならないの!」
と母親に泣かれると、恵理菜は全ての責任は自分にあるような気がして辛くなるのだった。

「ごめんなさい、お母さん、ごめんなさい!」


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誘拐した希和子を憎むことで自分を殺し、誰にも心を開かないまま、恵理菜は大人になった。


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赤ん坊を薫と名づけ、長かった髪を切り、マスコミの報道や警察に怯えながら各地を転々とする希和子。

学生時代の友人を頼り、その後にひょんなことから身を寄せたのは、悩みを抱える女たちが自給自足をしながら共同生活を送る新興宗教の‘エンジェルホーム’。

そこで、穏やかな日々が続くかに見えたが……やがてそこも危なくなると薫を連れて、名前を変えながら次の場所へ移動する生活。

「今日も一日、無事でありますように。明日も薫と一緒にいられますように……」

ただその一つの思いだけが希和子を動かしていた。


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家を出てバイトで生活費を稼ぎ、一人暮らしをしている恵理菜。

そんな頃、バイト先に安藤千草が訪ねてきた。

ルポライターだというその女性は、あの誘拐事件のことを本にしたいと言う。

恵理菜の元に度々訪れ、親しげに生活に立ち入ってくる千草。

放っておいて欲しいと思いながらも……恵理菜はなぜか拒絶することが出来なかった。

実は千草の正体は……。


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岸田という男と付き合っている恵理奈だが……ある日、自分が妊娠をしていることに気づく。

岸田は妻子のある男だった。

「あの人と同じ……でも私はあの人のように馬鹿じゃない……」

予期せぬ出来事に恵理菜の心は揺れて……岸田に別れを告げ、子供を産む決心をする。


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流れ着いた小豆島でひと時の安らぎを得、幸せな時を過ごす二人。

希和子は素麺工場で働き、薫には仲良しの友達ができた。

心温かい人たちに囲まれて……この楽園のような地で、薫に様々な美しいものを見せたいと願う希和子。

「もっといろんなモノを見ようね。海や空や……」

しかし、捜査の手はすぐそこまで迫っていた!

港のフェリー乗り場で、遂に逃避行は終わりを迎える……。

そしてそれは希和子と薫の永遠の別れでもあった。


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千草に励まされながら、恵理菜は今までの人生を確認するように、希和子との逃亡生活を辿る旅に出る。

そして……最終地である小豆島に降り立った時、恵理菜は記憶の底にあったある事実を思い出す。

恵理菜が下した決断とは!?


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女として生まれたことの痛ましいまでの哀しみと、それを生き抜く強さを描く人間ドラマ。


今日まで母親だと思っていた人が、自分を誘拐した犯人だった!

不実な男を愛した末に子を宿すが、母となることが叶わない絶望の中で、男と妻の間に生まれた赤ん坊を連れ去る女、野々宮希和子と、その誘拐犯に愛情一杯に4年間育てられた女、秋山恵理菜。

この二人の心の葛藤を丁寧に抉り出していく!



蝉は、何年も土の中にいて地上に出て七日間で死ぬ。

でももし、八日目になっても死なずに生きた蝉がいたら……果たしてその蝉は幸せなのだろうか。

「その蝉は哀しくて不幸だよね。周りに誰もいなくなって、独りになっちゃうんだから」

何もかも失い、自分は‘からっぽ’だ。
他の人が知る筈もない八日目を生きているようなものだ……と思っていた女たちが、哀しみや孤独を乗り超え、自分の足で一歩踏み出していく姿。

「八日目まで生きた蝉は、不幸なんかじゃないよ。だってそれだけ他の蝉より、綺麗なモノが見れるかもしれないでしょ」



薫と別れる日が近づいてきていることを(それは逮捕される日)覚悟した希和子が、最後の思い出作りとして写真館で記念写真を撮るシーンがあまりにも切ない。

「ありがとう、薫……ありがとう」

涙で顔をグシャグシャにしながらも、必死に笑顔を作ろうとする希和子の姿に……こちらも思わずもらい泣き。

美しくも哀しい名シーンでした!



二部構成だった原作を大胆にアレンジし、希和子が法廷で裁きを受ける場面から映画は始まる。

彼女と薫との4年間はいきなり総括され、業を抱えて成長した薫(恵理菜)の視点に比重を置いた物語であることが強調されます。

冷え冷えとしている現在と、温かな‘母’との過去が交互に描かれていくことで、恵理菜の記憶にはない思い出が綴られていき、4年間の逃亡生活の全貌も明らかにもなっていく。

そのなかから、浮かび上がってくるのは……母性というものの底知れぬ偉大さ。
そして、娘にとっての幸福だった毎日が、本来なら憎むべき相手であるはずの希和子との愛し愛される関係だった……という矛盾。

希和子のエゴ(?)の犠牲になったともいえる恵理菜。

しかし彼女にとってあの4年間は、心の中に封印していたものの、かけがえのない大切な日々でもあったのです。


恵理菜の苦悩が鎮められ、新たな希望の在り処を見出したラストには、心が揺さぶられます。

‘母性’をテーマに、それぞれが抱える複雑な思いを……時に繊細に、時に力強く描き、徐々に変化を遂げていく女たちの姿にグイグイ引き込まれ、2時間25分があっという間の見応え満点の作品でした。



永作博美が渾身の演技!

罪深き聖母ともいえるその表情と佇まいには、凄みさえ感じられ、また逃亡の地・小豆島で薫と楽しい日々を過ごす際の愛情に満ち溢れた優しく包み込むような笑顔、仕種……どれもこれもが、とにかく素晴らしい!
(今年の主演女優賞候補に名前が挙がるのは間違いなし!)


井上真央も難役を完璧に演じきっています。
ラストに見せる彼女の慟哭は、鳥肌モノの迫真の演技。


それから小池栄子が、これまたいい!
オドオドした視線や口調、ちょっと気持ち悪い歩き方など、幼少期のあるトラウマを抱えたまま生きてきた女性の雰囲気を見事に表現していました。