『恋は五・七・五! 全国高校生俳句甲子園大会』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『恋は五・七・五! 全国高校生俳句甲子園大会』


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【出演】
関めぐみ、小林きな子、蓮沼茜、橋爪遼、細山田隆人、佐藤めぐみ、高岡早紀、嶋田久作、もたいまさこ、柄本明、杉本哲太


【監督・脚本】
荻上直子



‘俳句はポップなんだから!’




夏の高校野球予選で甲子園出場の願い空しく敗れ去った松尾高校にとって、統廃合の時は2年後に迫っていた。


何とかして「我が校の名を未来永劫残したい」と願う校長は、悲観してばかりはいられないと……俳句甲子園への出場を宣言する。

「こうなったら、何でもかんでも色んな大会に出まくるっていうのはどう!?どうせならポジティブにいかないとね。まずは俳句甲子園出場を目指しましょう!」


その顧問に命じられたのは、超気の弱い国語教師、高山マスオ(マスオ先生)であった。


2年生の高山治子は、クラスに馴染めない、いや敢えて馴染まない一匹狼的な帰国子女。
日本文化に対するカルチャーギャップのせいか、いつも不機嫌そうに、クラスの様子を斜めから見ているような女子高生だ。


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一方、チアリーダー部のマコは、ちょっと太めの容姿が災いし、
「目障りでプレーに集中出来ないって苦情があるから、辞めてくれない」
と仲間から冷たくクビを宣告され愕然となる。


そのマコが、チビの男子クラスメートからバカにされている場面を目撃した治子は、そいつを投げ飛ばして撃退!

「ウゼーんだよ、チビ!」


そんな治子の姿をウクレレを胸に抱えて憧れのまなざしで見つめているのは、1年生の不思議少女・Pちゃんだった。

「治子先輩、カッコイイ~!」


絶望のどん底に突き落とされたマコは、号泣しながら校舎の屋上に駆け上がり……柵をまたいで、今まさに飛び降りようというその時、ひとりの男子から声をかけられる。写真部の土山(ツッチー)である。

彼はクールに、
「言い残すことは?」

思わずマコは、大声で叫ぶ!

「次の世は ましな私で 生まれたい!」

「辞世の句なんて、センスいいな」
そう言い残して立ち去る土山を見つめるマコの表情に、新たに生きる喜びが浮かんでいた……つまり……惚れた!


その頃、治子はヨーコ先生から呼び出されていた。

漢字の書けない彼女は、答案用紙にすべて‘ひらがな’で記入していることを指摘され……。

「帰国子女だからって漢字が書けないじゃ済まないわよ」
「でもその分、英語はペラペラですから。それでチャラってことで!」
「そういうワケにはいかないわ」

そして……夏休みの間、漢字ドリルで猛勉強するか、俳句甲子園のメンバーになるかの二者択一を迫られるのだった。


同じ頃、写真部の暗室でタバコを吹かしつつ現像をしていた土山は、マスオ先生から部会があると呼び出される。

慌てて部室に向かうと、そこには憧れの治子の姿が!

するともうひとり、野球部の補欠選手・山岸(ヤマギシ)が満面の笑みを浮かべて座っていた。

ことの次第を訝しがる土山は、マスオ先生から思いがけない事実を聞かされる。

「写真部は夏休みの間だけ、俳句部になる!」
「はいく?」
「そして、俳句甲子園に出場する!」
「こうしえん?」

とそこに、土山を追ってマコが部室に現われ、入部を希望する。
これでメンバーは4人。けれど、俳句甲子園には5人1組でしか出場できない。

「夏休みにやるなんて勘弁してよ。第一、俳句なんてダサいっつうの。ジジババの趣味じゃん。全然カッコ良くないし、オシャレじゃないし」

こう激しく抵抗する治子に山岸は、
「俳句はダサくなんかない。俳句はポップなんだよ!」
「あんたみたいにシンプルな顔が言っても説得力ないっつうの」
「シンプルな顔って……」

ちょうどその時、今度は治子を追ってPちゃんがやって来た。

「入部させてください!」
「5人、揃いましたね」


「俳句甲子園」とは、愛媛県松山市で全国の高校生たちが5人1チームになって対抗戦を繰り広げる俳句大会。
ルールは、題に沿って句を作り、自分の句の解説と相手の句を鑑賞することで、優劣を決するというシンプルなもの。


こうして、5人の‘俳句修行’が始まった……が。


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「俳句には季語と切れ字があって……切れ字、分かりますか?」
「切れ‘痔’?誰が?マスオちゃん、切れ‘痔’なの?」

俳句のことなど何も知らない治子たちであった。

俳句に対して並々ならぬ情熱を注いでいるのは山岸ただひとり。
他は‘ズブの素人’の4人だが、四苦八苦しながらもそれぞれの‘5・7・5’をノートに書き連ねてゆく。


‘空高く レモンを投げる ひるやすみ’


「ああ、いいんじゃない?」
「なかなかいいと思います」
「そ、そう!?」


しかし、土山はなかなか自作の句を発表しようとしない。
治子に恋をしている彼は、常日頃からカメラで彼女を盗撮していた。(しかも、その写真をオカズに度々○○○○をしていた)

そんな土山が俳句甲子園に参加しようという気になったのも、思いがけず治子のそばにいられる幸運を逃したくないという一心からだったのです。


連日、厳しい(?)練習の日々が続く。

「今日は‘吟行’に行きます」
「銀行?」


やがて彼らの心に、俳句に対する興味と情熱が不思議と沸き上がってくる!


そんな時、治子はクラスメートから「俳句をやるなんてダサすぎ」とからかわれ……。

「俳句はダサくなんかない!俳句は……俳句は……ポップなんだから!」


数日後、部員らは去年の優勝校である古池高校の見学へ出かける。
まるで体育会系のノリで練習する彼らの姿に、気負される治子たち。


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そして、練習句会に臨むが、唯一の頼みの綱だった山岸が緊張のあまり言葉に詰まりコテンパンにやられてしまう。

「皆さんは俳句をバカにしてませんか?俳句をやる資格などない」


帰りのバスの中で失意に沈むメンバーにマスオ先生はこう慰め、励ますのだった。

「楽しんでください。上手く詠もうなんて考えなくていいんです。楽しんで詠んだ俳句は、しっかり伝わるはずです」


どしゃぶりの雨の日、俳句大会を開くメンバーたち。
教室の床一面に広げられた半紙に、思い思いに筆を走らせる5人。
その姿は、まるで童心に戻った子供のようだ。
こうして、いつしか大雨の夜は更けてゆく……。


大会が間近に迫ってきたが、土山は依然として自作の句を発表していなかった。

「ツッチー、今日こそ詠んでもらうからね!」
「いや……あの……」

業を煮やしたPちゃんが強引にノートを取り上げて詠んでしまう。

‘印画紙に 写せぬ君の 笑い声’


そして……屋上で治子は土山に、
「さっきの句、よかったよ。わたし、好きだなぁ」

これは告白する絶好のチャンス!
土山は意を決して自分の思いを話し始めるも……徹夜で俳句の練習に励んでいた治子は、静かな寝息を立てていた。

これはキスをする絶好のチャンス!
そ~~っと治子に忍び寄り、唇に……と、その気配を察した治子はガバッと起き上がり、額と鼻が激突!

「いま何かした?したでしょ!?」

土山は大量の鼻血を垂らしながら、
「……し、してないです」
「……嘘つき!」


‘夏空に 見られて僕の ファーストキス’


いよいよ俳句甲子園の初日となった。

愛媛県松山市の会場に全国から集まってきた参加校の異様な熱気に、圧倒されまくる松尾高校のメンバーたち。

試合が始まっても緊張感は抜けきらず、しどろもどろの治子、無言の土山、泣きじゃくるマコ、言葉の詰まる山岸、ピント外れのPちゃん……予選の2試合にあっけなく連敗し、意気消沈する彼らのそばを、古池高校のメンバーが意気揚々と通りすぎ、ますます落ち込む治子たち。


そんな彼らに、マスオ先生は敗者復活戦のため、松山城まで吟行に行こうと提案。

ところが憧れの土山が実は治子のことが好きだったと知ってしまったマコは、
「わたし、もう辞めます!帰ります!」

失恋した悲しさに、松山城から飛び降りようとさえする始末。

治子は必死に訴える。

「俳句なんて最初はバカにしてた。でもだんだん楽しくなってきて……俳句をやってよかったと思ってる。マコ、最後なんだからみんなで出ようよ!」


こうして敗者復活戦に挑む松尾高校。

‘ひまわりや 僕らにひとつ ある言葉’


治子は審査員に向かって……
「わたしは、俳句ってカッコ悪いと思ってました。でも今は、17語でしか伝わらないことがあるって……日本語って素敵だなって思いました。みんなで作った最後の句、楽しかったです!」


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なんと松尾高校は敗者復活戦を勝ち抜く奇跡を起こし、準決勝に進出!

しかも対戦相手は宿敵、古池高校。

余裕しゃくしゃくの古池に対し、全力でぶつかる松尾。

重厚な雰囲気の句を連発する古池に治子は……

「どうしてそんなに重苦しい句ばかりなんですか?それに実際に自分が体験したような思いが伝わってきません。俳句は楽しんでやらないと意味がないって、マスオちゃんが言ってました」


2対2で迎えた大将戦。
治子の詠んだ句は……

‘南風 わたしはわたし らしく跳ぶ’ 

結果は白旗7本!松尾高校に軍配が!


‘頑張るなんてカッコ悪いと思ってた’


そして……。

学校に戻ったマスオ先生は満面の笑みで盾を校長に手渡す。

‘優勝・松尾高校’


自転車に乗った治子は土山に、
「ツッチー、一緒に帰ろ!」
「マジで!?」
「うっそー!じゃあね!」


‘翔けてみる 青春恋は 五・七・五!’


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十七音の凝縮された世界を通して描かれるのは、誰もが心に抱くトキメキ、不安に恋の悩み。
それらは笑いというオブラートに包まれ、瑞々しく爽やかに展開します。


俳句はダサい?年寄りの趣味?
いやいや、俳句は‘ポップ’なのだ!!

ちょっぴり切なくて、でも笑えて、観終えた後には爽やかな気分に浸れる‘文化部系スポ根’青春ムービー。



俳句部5人のキャラ設定が抜群にいい!

且つ、荻上監督お得意のノンビリとしたユル~~い演出も秀逸です。


そしてこれまた荻上監督らしいのが、ストーリーとは関係ないけれど(?)強く印象に残るシーンを唐突に挿入するところ。

例えば『めがね』に於ける‘メルシー体操’などがそうでした。

この作品では、Pちゃんのウクレレに併せて治子とマコの3人が、無人の校庭でキャンディーズの「やさしい悪魔」を歌い踊ります。

これが何とも言えず愛らしくて超可愛い!
(チャプターで何度も観直してしまったくらい)


これは伏線なのか?後で何か大きな意味を持ってくるのか?

ところがストーリーには、特に係わってはきません。
しかし、それでいいんです!
3人が本当に楽しそうに歌い踊るのを観ているだけで、こちらも自然と笑顔になり……幸せな気持ちになれるのだから。



主演の関めぐみは、ちょっと斜に構えた女の子、治子を見事に演じきっていて素晴らしい。


それから‘不思議少女’Pちゃん役の蓮沼茜が、凄い存在感でメチャメチャいい味を出している。



『スウィング・ガールズ』『ウォーター・ボーイズ』『書道ガールズ』『武士道シックスティーン』『うた魂♪』『リンダリンダリンダ』等に匹敵する青春映画の傑作でした!