『おくりびと』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『おくりびと』


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【出演】
本木雅弘、広末涼子、余貴美子、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫、吉行和子、笹野高史、山崎努


【監督】
滝田洋二郎



‘お会いしたばかりですが、お別れです’




プロのチェロ奏者として東京のオーケストラに所属してい小林大悟。

しかし……ある日突然、楽団が解散!
音楽の夢を諦め、妻の美香とともに田舎の山形県酒田市へ帰ることに。


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就職先を探していた大悟は、新聞で‘年齢問わず、高給保証!実質労働時間わずか。旅のお手伝い。NKエージェント’と書かれた求人広告を見つけ……
「旅のお手伝いって、旅行代理店かな!?」


早速、面接に向かった彼を待ち受けていたのは、なぜか棺桶が置いてある古びた事務所。

ほどなく現れた社長の佐々木は、ろくに履歴書に目を通すこともなく、
「うちでどっぷり働ける?」
「は、はい」
「採用!」
「え?」
「おい、すぐ名刺作ってやって。最初は片手でどう?」
「……5万?」
「50万」
「そんなに!?」
「とりあえずは俺のアシスタントで」
「……どんな仕事をすれば?」
「納棺」
「のーかん?」
「棺桶」
「え!?あの、これには‘旅のお手伝い’って」
「あぁ、この広告、誤植だな。‘旅のお手伝い’ではなくて、安らかな‘旅立ちのお手伝い’。NKは、納棺のNK」
「…………」

納棺……それは遺体を棺に納める仕事だった!


思いもよらない仕事に慌てふためく大悟だったが、佐々木に言われるがまま引き受けてしまい……美香には冠婚葬祭関係の仕事に就いたと答えてしまう。

「冠婚葬祭って、結婚式場?」
「……まあ」


こうして、晩秋の庄内平野を佐々木とともに駆け回る大悟の新人納棺師としての日々がはじまった。


初出社日。
不安を隠せない大悟は、事務の社員・百合子に、
「僕に勤まりますかね?」
「大丈夫!そのうち慣れるわよ」
「死体に……ですか?」
「うん」


そして早々に、納棺の解説DVDの遺体役をさせられ散々な目に遭い、さらに最初の現場では孤独死後二週間経過した老女の遺体処理を任され唖然、愕然!

初日から仕事の厳しさを知る。


それでも少しずつ納棺師の仕事に充実感を見出し始めていた大悟であったが、噂で彼の仕事を知った幼馴染の銭湯の息子の山下からは「もっとましな仕事に就け」と白い目で見られ……。

そんな矢先、とうとう仕事の内容を知ってしまった美香からは、
「何で言ってくれなかったの?こんな仕事をしてるって。恥ずかしいと思わないの?」
「何が恥ずかしいんだよ。普通の仕事だよ」
「普通!?今すぐ辞めて!お願い!」
「でも……」
「そんなの一生の仕事に出来るの?……わたし、実家に帰る。仕事辞めたら連絡してきて」
「美香!」
「触らないでよ!汚らわしい!」


数年前に母親を亡くし、幼い頃に父親が失踪してしまった大悟にとって、唯一の家族であった彼女が離れていったことは大きなショックであった。


それに追い打ちをかけるかのように、ある現場で不良学生を更生させようとした列席者が大悟を指差し、
「この人みたいな仕事して一生償うのか?」

この発言聞いたを機会に、退職の意を佐々木に伝えようとするが……佐々木のこの仕事を始めたきっかけや独特の死生観を聞き思いとどまる。

「生き物は生き物を食べて生きてるんだ。美味いんだなぁ、これが。困ったことに……」


大悟は、真摯な態度で仕事にのぞむ信念を固め、美香が戻ってくるのを待つことにした。


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美人だと思ったらニューハーフだった青年、ヤンキーの女子高生、幼い娘を残して亡くなった母親、ルーズソックスを履いてみるのが憧れだったオバアチャン、沢山のキスマークで送り出される大往生のおじいちゃん……様々な境遇の死や別れと向き合ううちに、いつしか納棺師の仕事に誇りを感じるようになっていく。


こうして季節はうつろい、春が訪れようとしている時……場数をこなしそろそろ一人前になった頃……突然、美香が大悟の元に戻ってくる。


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妊娠を告げられ、再び納棺師を辞めるよう迫られた大悟に仕事の電話が入る。

それは、一人で銭湯を切り盛りしていた山下の母、ツヤ子の納棺の依頼であった。

山下とその妻子、そして自らの妻の前でツヤ子を納棺する大悟。その細やかで心のこもった仕事ぶりによって、彼は妻の理解も得、山下とも和解した。


そんなある日、大悟の元に亡き母宛ての電報が届く。
それは大悟が子供の時に家庭を捨て出て行った父、淑希の死を伝えるものであった。

「今さら父親と言われても……30年も会ってないし、顔すら覚えてないんだよ」」
と、当初は遺体の引き取りすら拒否しようとする大悟に、自らも帯広に息子を残して男に走った過去があることを告白した同僚の百合子は、
「お願い!最後の姿を見てあげて」

佐々木は棺桶を指差し、
「好きなの持ってけ」


大悟と美香は、遺体の安置場所に向い、30年ぶりに対面した父親の納棺を自ら手掛ける!


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果たして大悟は納棺師として、そして夫として人として、身近にいるかけがえのない人々の生と死に、どのように向き合えるのだろうか!?


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人は誰でもいつか、おくりびと、おくられびと……になる。
大切な人を、どう‘おくりたい’か? そしてどう‘おくられたい’か?

全ての人に普遍的なテーマを通して、夫婦の愛、わが子への無償の愛、父や母、肉親への想い、友情や仕事への矜持などを描く、ユーモアと感動が融和した納棺師の愛の物語。



納棺師とはなんと素敵な仕事だろう……と思ってしまうくらい、本木雅弘と山崎努のスムーズな手の動きに見とれてしまった。

それはとても美しく、厳かな旅立ちの儀式に相応しい見事な所作。



悲しいはずのお別れを、優しい愛情で満たしてくれるひと。

遺体を棺に納める納棺師の姿は、一見地味で触れ難いイメージの職業ですが、ユーモアを絶妙に散りばめて、愛すること生きることを紡ぎだした素晴らしい作品でした。



笹野高史演じる銭湯の常連客であり、火葬場の職員でもある男が……長年、秘かに恋していた‘銭湯のおばちゃん’を火葬する際の台詞に泣ける。

「死は門です。これで終わりではなくて、門をくぐって新しい道を歩みだす門です。いってらっしゃい……また会おうね」



峰岸徹が遺体となった父親役で出演しており……この撮影後に本当に亡くなってしまったことを思うと、安らかに眠っているシーンは……近い未来を暗示しているかのよう?


それから死んだ妻を号泣しながら見送る夫役の山田辰夫も、この作品が遺作に。


この二人が登場するシーンは、観ていて辛くなります。