
【出演】
松田優作、伊丹十三、由紀さおり、宮川一朗太、松金よね子、岡本かおり、鶴田忍、戸川純、白川和子、伊藤克信、加藤善博、清水健太郎、阿木燿子
【監督】
森田芳光
中学三年の沼田茂之は高校受験を控えており、父の孝助、母の千賀子、兄の慎一たちまで家中がピリピリしている。
出来のいい慎一と違って、茂之は成績も悪く、今まで何人もの家庭教師が来たが、誰もがすぐに辞めてしまうほどの先生泣かせの問題児でもあった。
そこへ三流大学の七年生・吉本勝という男が新しく家庭教師としてやって来る。
吉本はいつも植物図鑑を持ち歩き、海に近い沼田家に船でやって来るという変わり者。
「息子は問題児でね」
「問題児って何ですか?驚かさないでくださいよ、お父さん」
早速、茂之と向かい合う吉本。
「よろしく……可愛い顔してるね」
「……」
「問題児だって?」
「受験生はみんな問題児ですよ」
「面白いこと言うじゃない」
と突然、茂之の頬にキス!
「……気持ち悪いですよ」
「俺だって気持ち悪いよ」
「……」
その晩、孝助は「茂之の成績を上げれば特別金を払おう」と持ち掛け、吉本は承諾。
ところが……茂之の問題児ぶりは想像以上だった。
ノート全体にぎっしりと書かれた‘夕暮れ’の文字。
「意味の分からない言葉を書きだせって言ったのに、何だよこれ?」
「夕暮れは把握しました」
「ナメてんのか?こんなことして、いい根性してんな」
「時間潰しにはなりましたよ」
するといきなり強烈な張り手!
「お母さん……」
「あら、鼻血!」
「興奮したんでしょ?何か飲み物貰えます?」
「……」

こうして吉本と茂之の歪んだ関係は続いていき……。
表面的には幸せそうに見えるごく普通の家庭に雇われたヘンな家庭教師が、子供の受験のことしか頭にない貧弱な家族関係を、気持ちいいようにぶち壊していく様を皮肉を交えて描いたブラック・ホームドラマ。

長いテーブルに横一列に並んで食事を摂る奇異な姿、チューチューと音を立てて目玉焼きを啜る父親、グビグビとどんな飲み物でも必ず一気に飲み干す吉本、下品な咀嚼音、カチャカチャ耳障りな食器音……不快な音を響かせながら、それぞれ好き勝手に食事をするこの光景は……何とも不気味。
ラストで吉本の取る行動は痛快、爽快!
家族を殴り、テーブルを倒し……うめき声を上げる彼らを尻目に、
「失礼します」
と何事もなかったかのように立ち去る。
松田優作の静かな、ひたすら静かな狂気の演技は凄い!
キモくてダサくてパッとしない大学生役が見事にハマっています。
『家族ゲーム』は大傑作のブラックコメディだ!
