高校の教科書の整理をしているあかり。
「これはいらない……歴史は……」
そこに一本の電話。
「ん?はいはいはい……(受話器を取り)はい、芳山です……はい」

和子が事故に遭ったとの知らせに慌てて病院に駆け付けるあかり。

あかり「す、すいません、芳山です」
医師「娘さんですか?」
あかり「はい」
医師「大きな外傷はなく、軽度の裂傷や打撲は見られますが、そちらは2週間程で完治するでしょう。ただ頭部を強く打っていまして現在、意識は戻っていません。目覚めるのを待つしかない状況です」
あかり「……!!」
病室に恐る恐る入るあかり。
ベッドに横たわる和子の姿に涙が溢れてきて……。
死んだように眠っている和子に、「……お母さん……お母さん!……起きてよ!!」
病院の待合室で憔悴しきっているあかりに、吾朗が優しく語りかける。

吾朗「一睡もしてないんでしょ?」
あかり「……」
吾朗「少し横になったら?」
あかり「……うぅん、いい……」
吾朗「目覚めた時にあかりちゃんが元気じゃないと、芳山クンが心配するよ」
あかり「……」
そのときテレビから、1974年の3月に起きたバス転落事故を振り返る番組が流れてきて。
吾朗「……!(テレビに注目)」
アナウンサーの声「多くの乗客を乗せたバスは、3月2日の夜、秋田県の能代に向かって新宿を出発……」
吾朗「……僕ね、36年前のこの日、このバスに乗る予定だったんだよ」
あかり「……!?(思わずテレビに目を遣り)」
アナウンサーの声「そして事故は起き、38名の尊い命が奪われました……」
吾朗「スキーに行く途中だったんだ。ドジだから、バスのチケット、家に忘れちゃったんだ」
あかり「……」
テレビから流れる女性タレントの声「……実は私の友人もこの事故で命を落としたんです」
吾朗「でもね、生かされたのは……運命だと思ってる」
あかり「……」
吾朗「芳山クンは強運の人だから……絶対に目覚めるよ……大丈夫」
あかり「……ありがとう……」
吾朗の励ましに涙が溢れて。
居間でアルバムを見るあかり。
表紙に‘誕生 長谷川あかり’の文字。

ページをゆっくりと捲る。
‘生後まもないあかり’
‘笑顔のあかり’
‘和子に抱かれたあかり’
あかりの赤ちゃんの頃の写真。
パソコンの前のあかり。
メールのアドレス欄をスクロール。
‘長谷川政道’の名前を見つけクリック。
‘来月から4ヶ月 立山に行く
雪山の撮影 ’
長谷川からの素っ気ないメール。
あかり、メールを返信。
本文に……。
‘芳山あかりです
母が事故に遭って入院しました
もし ’
「……」

‘もし’の部分を消去してメールを送信。
「……」
病室で眠り続ける和子に、泣きながら語りかける。
あかり「お母さん……わたし……今日、誕生日だよ……18歳……なんか……大人の響きだね……」
涙が止まらず……。
と……不意に和子の瞼が徐々に開き……。
あかり「……!?お母さん?……お母さん!」
和子「あかり」
あかり「あかりだよ!お母さん!」
和子「行かなきゃ」
と起き上がろうとする。
あかり「ダメ!動いちゃダメ!」
和子「行かないと……」
あかり「え?なに?」
和子「あの人に会いに」
あかり「え?」
和子「深町一夫」
あかり「深町……一夫?」
和子「写真と鍵!私のバッグ、バッグ」
あかり「バッグ?しゃ、写真と……えっ……」
テーブルの上のバッグを手にし、焦る手で封筒と鍵を取り出す。
封筒を開くと写真とラベンダー。
あかり「……これ?」
和子の‘あの記憶’がまた鮮明に甦り……。
和子「私、行かなきゃ」
必死に押さえ付けて、
あかり「ダメ!お母さん!お母さん!……分かった!わたしが行く!わたしが行くから!どこにいるの!?」
和子「1972年4月……土曜日……中学校の理科実験室……」
あかり「?……19……72年?」
和子「研究室の机の鍵……その中に薬が」
あかり「……!?」
和子「それで過去に……それを飲んで念じれば……あ……会って……伝えて……(あかりの耳元で消え入る声で)約束、消えてない……」
あかり「……分かった。分かったから!わたしが伝えてくるから!だからお母さん、し、しっかり……!?」
和子、再び意識を失う。
あかり「お母さん!?お母さん!しっかりして!」
昭徳大学の研究室。
そっとドアから顔を覗かせるあかり。
ひっそりとした室内。
和子の机の一番下の抽斗にしまってある大きな瓶と銀色のケースを発見。
瓶には同じ年号の100円玉がギッシリと詰まっている。
「……?昭和47年?……昭和47……1972年か」
銀色のケース。
開けるとタイムリープの薬が二つ。
写真を見つめながら薬を口に運ぶ……が一瞬、躊躇って。
「……」
しかし意を決して薬を一気に飲み干す。

眼をギュッと瞑り、
「1972年の4月……土曜日の実験室……」
……そして……恐る恐る眼を開け……。
「……ん?……ん?」
何の変化もない。
「……(思わず苦笑し)何やってんだ?わたし……なるワケないか?……?……19……1974年の2月?……だったっけ?……?」
と!!
あかりの手にした写真がグニャリと歪む。
「ん!?」
続いて腕時計の針が異常な速さでグルグルグルグル回り出す。

「んっ!?……え?……は!!」
タイムリープの予兆?
「1974年の2月!土曜日の実験室!!」

するとあかりは、みるみる時空の谷間へと堕ちていき……。
悲鳴を上げながら堕ちていくあかり。
もの凄い勢いで時空間に引きずり込まれる。
「何じゃあ、こりゃあーーー!」
想像を絶する恐怖から必死に逃げ惑う。
悲鳴を上げながら走る、走る!
後方から迫ってくる‘何か’に怯えながら。

あかりの眼前を飛翔する一羽の白い鳥。
助けを求めるかのようにおもいっきりジャンプ!
その鳥に捕まろうとする……が無情にも届かずに……あかりは……時空間へと、どんどんどんどん堕ちて行き……。


鳥の羽根だけがフワフワと舞い落ちて……。
