K美はJちゃんに言われるがまま、ナルオの隣に腰を下ろした。
「なに~?いまC君と盛り上がってたのに~」
「ホストさ…ナルオさんがね、K美に話があるんだって。ちょっと聞いて上げてよ」
「ふーん、なに?」
「じゃあ、後はお二人でごゆっくり」
俺とJちゃんが立ち上がろうとすると…。
「待っとくれ!たにょむ!いきゃぬわいでくれ!」
声は裏返り、口が全く回っていない。相当、動揺しているようだ。でも動揺し過ぎだろ!幾つになるんだよ。
「頼むからいてくれ。見捨てないでくれ」
見捨てるって大袈裟な。仕方なく俺達はその場に留まった。
「それで話って何なの?No.1さん」
うわ~K美って結構、気が強そうな雰囲気。大丈夫か?ナルオ。
「これはボキ…僕の気持ちです。受け取って下さい」
ナルオは恭しく花束を差し出した。その手がプルプル震えている。
「あ、くれるの。アリガト。せっかくだから貰っとくね」
ありゃあ、ツレない返事。
ナルオは俯いたまま「それで、えーと…そのぉ…」
が、K美は「あ、C君が呼んでる」とさっさと席を立ってしまった。
ナルオは気付かず「あの、今晩僕と朝まで一緒にホテ…あれ?」
顔を上げたナルオは目が点になっていた。
つうか、こいついきなりホテルに誘うつもりだったんかい?さすが、カットとカップを言い間違えただけのことはある。
奴の頭の中は、K美の推定Fカップのことで占められていたのだろう。
「なんだ~案外K美ちゃんて照れ屋さんだったんだなぁ。うぶなんだね」
その言葉をそっくり君に返そう。
「じゃあ、俺は帰るよ」
ナルオはいきなり立ち上がった。
「え?これから盛り上がるのに?このあとはカラオケ行くんだぞ」
「そうですよ。カラオケ行きましょうよ」
「いや、用を思い出したから…」
そんなナルオの目にはキラリと光るものが。
「お前、泣いてるのか?」
「バ、バカ言うなよ。なんで俺が泣かないとならないんだよ。泣くわけないじゃん。泣いてないよ!泣いて…ちっきしょう!昨日、ネットでどこのホテルにしようか徹夜で調べまくったのにー」
げ?徹夜でホテルをググってたの?用意周到というか、先走り過ぎというか…こいつって一体。
「は!そうだ!Jちゃん、どうですか?一緒にホテル・チョモランマに行きませんか?一発一万…」
「一発一万?!」
「あ、すいません、間違えました。一泊一万の部屋があって」
「絶対に行きません!」
さすがのJちゃんも怒りの表情だ。
「くそー!楽しみにしてたのにー!やっと卒業出来ると思ったのにー」
ナルオは‘ある何か’をテーブルに叩きつけると、狂ったように泣き喚きながら、店を飛び出して行った。
テーブルの上には、叩きつけられた‘サガミ・オリジナル○○’がポツンと残されていたのであった。