Zoot Simsはお気に入りのTenor Sax奏者の一人であり、アルバムもそれなりに集めてみた。40年代にWoody HermanのBig Bandで "Four Brothers"の一員になった時から一貫して小細工無用の生粋のSwingerであるZootは、興味深いことに、凡そハズレと思われる作品に出会ったことがない。California州はLos Angeles南西部のInglewoodに生まれたZootは40年代から80年代に渡る約40年間に及ぶ演奏生活で、Stoicなまでに自己のStyleを貫き通してきたHard Bopperである。だから時流に流されることなく、愚直なまでにその時々の演奏が全てとばかりにガチンコでBlowする。かなりの酒豪であったらしいのであるが、それ以外のおクスリ関係や女性問題といった当時のJazz Musicianについて回る破天荒な無頼派の生活とは無縁の良き家庭人であったとも言われており、その辺がZootらしいというか、作品に音楽至上主義的な安定感をもたらしているような気がする。革新性や刺激的で時流に乗った派手なGimmickとは無縁の、いわば金太郎飴的な安定感とでもいったらファンの方からお叱りを受けるだろうか。ところが、そんな硬派なZootが60年代半ばにImpulse!に残していた唯一のLeader Album、これが、なんと豪奢なStrings OrchestraをバックにStandardをBallad仕立てでTenorを吹きVocalまで披露してしまう作品だったとは。オイオイ、Zootのイメージが…となるが、これが悪くないのである。StringsをバックにStandardのBalladというと、歌のない歌謡曲的な陳腐なEasy Listeningモノを連想してしまうが、そこは流石Gary McFarlandがArrangeしているだけあって一味違う。というわけで Impulse!がBob ThieleとMcFarlandのProduceで見事に人間味あふれるZootの人柄が滲みだすような温もりのあるまろやかなTenor Saxの魅力を反映させた愛すべき作品となった。
『Waiting Game』はZoot Simsが66年に Impulse!からリリースしたアルバム。
アルバム1発目はWillard Robison作曲の30年代に書かれたStandard“Old Folks”。甘美でまろやかなZootのTenorに酔いしれる。バックのStringsは少々甘口ではあるが、Zootはソロになると俄然生き生きとしたフレーズが飛び出してくるところが良い。
Mack Gordon作曲の45年公開のMusical映画『Billy Rose's Diamond Horseshoe』挿入歌“I Wish I Knew”。艶っぽいZootのTenorで始まり、バックの演奏はチョイBossa風味も感じさせる。David ShellのHarpもイイ感じ。
Gary McFarland作の哀感漂う“Once We Loved”もBossa風で雰囲気タップリのZootのTenorとHarpのバッキングが極上の調べを奏でる。
40年公開のTony MartinとRita Hayworth主演のRomanticなMusical映画『Music In My Heart』のために書かれた“It's A Blue World”。これはBeverly Kenneyが絶品のVocalで取り上げた大好きな曲で、こちらはこれまたBossa風にキメている。もう最高としか言いようがない極楽気分。
Kurt Weill作曲Maxwell Anderson作詞の“September Song”は38年の Broadway Musical『Knickerbocker Holiday』挿入歌でZootの渋いVocalが聴ける。ま、これはご愛嬌か。
Richie先生を思い浮かべるStandard“Over the Rainbow”。これまたBossaな香り漂わせZootが甘美にBlowするのがたまらなく心地良い。
必殺のBallad Standard“Stella by Starlight”。これはお約束。
Gary McFarland作の切なく甘美な“One I Could Have Loved”。Harpが気持ち良すぎの優美なJazz Waltz。
Zoot十八番のStandard“You Go to My Head”は男泣きTenorがたまらんですばい。
最後を飾るのはGary McFarland作の“Does the Sun Really Shine on the Moon?”。Relaxした洗練の極みともいうべき曲でシメる。
(Hit-C Fiore)