Tony FruscellaというJazz Trumpet奏者について、実は自分は満足に語れるだけの知識を持ち合わせていない。Atlantcにたった1枚残されたLeader Album『Tony Fruscella』はモノクロのジャケットが非常に印象的で、思わず手に入れてしまったのだった。所謂ジャケ買いというやつだったけれど、これが中々素晴らしい出来であった。華麗なテクニックで圧倒したり思わず耳を奪われてしまうEmotionalで気合の入った派手なHigh Noteを連発するタイプではない。かといってChet Bakerのような抜群のMelodyを生みだすセンスや思わず聴き入ってしまう流麗な魅惑のフレージングで魅了するのともチト違う。ただ、そこには独特の詩情というか、内省的でLyricalな世界が広がっていて、その雰囲気で聴く者をいつのまにか魅了してしまうのだ。"Trumpetの詩人"と呼ばれているのもわかるような気もする。黒々としたBluesyな世界やキレキレのBop魂炸裂といったのとも異なる、吹きすぎない、熱くなり過ぎないTrumpetの中音域を絶妙に使った中庸の美というか、チョイと気怠げで儚い感じがイイ味を出している。New York生まれのTony Fruscellaはキャリアの初期には陸軍のバンドで演奏していたという。50年代にはCharlie Barnetのバンドで演奏していた他、 Lester YoungやGerry Mulligan、Stan Getzらと共演していた。生前唯一のLeader作となる本作ではTenor Saxでなんと伝説のAllen Eagerが参加しているのが注目すべきところだろう。ピアノはCharles MingusやSam Mostなんかとも演奏しているBill Triglia、ベースにBill Anthony、ドラムスにJunior Bradleyというメンツで、2曲のみBaritone SaxのDanny BankとTromboneのChauncey Welschも加わる。60年代前半にはFruscellaは残念ながら薬物乱用とアルコール依存症の問題で演奏できなくなっていたという。
『Tony Fruscella』はTony Fruscellaが55年にリリースしたアルバム。
アルバム1曲目は“I'll Be Seeing You”。Bing CrosbyやBillie Holiday、Joe Stafford、Julie Londonの名唱で知られる30年代のBroadway Musical『Right This Way』の挿入曲だったStandard。Fruscellaは中音域を効果的に使い、小気味よくTrumpetを吹き、Bill Trigliaのピアノ・ソロも味がある。
Trumpet奏者Phil Sunkel作の“Muy”はBaritone SaxのDanny BankとTromboneのChauncey Welschも加わった哀感に満ちたThemeから入り、ここでもFruscellaは可もなく不可もなくではあるのだが、バックの演奏も含めて端正でLyricalな世界を描き出していて思わず聴き入ってしまう。ここからはPhil Sunkel作の曲が続く。
鯔背なBlues“Metropolitan Blues”。Relaxして玄人好みのフレーズを繰り出すFruscellaが良い。朴訥なBill Trigliaのピアノ・ソロがまたイイ感じ。
指パッチンの“Raintree County”は、どこか儚げで気怠げなFruscellaのTrumpetが味を出している。
“Salt”は再びBaritone SaxとTromboneを加えた緊張感のあるイントロから惹きこまれる男前Hard Bop。Allen EagerのBop魂に満ちたTenor Saxソロが激カッコイイ。対照的に脱力したChauncey WelschのTromboneソロも面白い。
“His Master's Voice”こそFruscellaの個性が出ているナンバーといえる。どこか寂しげで抒情的なTrumpetが生み出す独特の詩情がたまらなく魅力的である。
これまた小粋な男前Jazzの“Old Hat”。ぶっとく鳴らすEagerのTonor、そしてFruscellaのTrumpetが続き気分は揚がっていく。
“Blues Serenade”は個人的にはアルバムのハイライトでFruscellaのTrumpetがなんとも朴訥として味わい深くてイイ感じ。
アルバム最後を飾るのは“Let's Play The Blues”。FruscellaもEagerも歌心に満ちたご機嫌なBlues。Trigliaの転がるピアノ・ソロも最高。
(Hit-C Fiore)