誰にも教えたくない、自分がたった一人で自分のためにだけひっそりと聴きたいSinger-Songwriterの作品があるとすれば、本作である。しかし、こんなに素敵な音楽を独り占めにしてしまうのは勿体ないので、ご紹介することにしよう。犬ジャケットも最高だけど、中身も本当に素晴らしい一枚。80年という微妙な時期にリリースされたのが信じられないほどSimpleでLyricalな名盤である。この音盤を聴くたびに切なく、もうどうしようもない位グッときてしまうのだ。男の女々しさと言われようが、愛する女性を失った歌詞も響きまくり。だから、一人だけで聴いていたいのである。これほど沁みるS.S.W.のアルバムはそうはない。Stan MoellerはMichigan州の湖畔にあるSouth Haven出身のSinger-Songwriter。画家としても知られるMoellerが残した恐らく唯一のアルバム。基本的には本人の歌とAcoustic Guitarによる弾き語り。Phil Lucafoの味わい深いLead GuitarとTony Griffのベースが加わる曲もあるけれど、Stan Moellerの淡々とした弾き語りを聴かせるドラムレスの無駄な装飾を一切取り払ったSimpleな作品は、どれもが手作り感覚の温かさに満ちたもの。正しく犬ジャケに駄作なしを証明しているといえよう。楽曲もJazzやLatin音楽の要素を仄かに香らせ、洗練されながら力の抜けたLyricalな味わいも感じさせてくれる充実ぶり。これがデビュー・アルバムとは思えないほどの完成度の高さである。MoellerのAcoustic Guitarの腕前も中々のもので、時に語りかけるように、呟くように歌うVocalも魅力的だ。アルバムを1枚しか出さなかったのは勿体ないぐらいの才能を感じる。泣きのメロディを書かせたら天下一品だ。
『Thin Ties』はStan Moellerが80年にリリースしたアルバム。
アルバム1発目の“Changes”は2本のAcoustic Guitarが心地良く絡む中、Moellerの甘やかなVocalが実に素晴らしい。歌詞も泣けますわ。
美しいArpeggioに絡むエレキ・ギターがイイ感じのイントロで始まる“Down With Your Ship”。
冷え切ってしまう男女関係を歌うMoellerの真摯な歌詞もグッとくる“Cold War”。
イントロのAcoustic Guitarの爪弾きから惹きこまれてしまう“ Alone In L.A.”。アコギでかき鳴らされるMajor Seventhの甘美な響きとEnnuiなVocalが最高。ギター・ソロも心地良い。
柔らかな指さばきのArpeggioと簡素なピアノをバックに淡々と歌い上げる“What Ever Happened To Love”。
Harmonicaが鳴り、ジャンジャカとアコギが鳴らされるイントロがカッコイイ“City Lights”。適当感漂うScatもイイ感じ。
“Love Is A Child”はLyricalなArpeggioと儚げなVocalに何とも切なくなってしまうナンバー。
静かなイントロから元気よく突っ走る“If It's Love”は
“Margarita”はLatinな香りが漂うSeetなBossa風のナンバー。Scatも効果的。
“Ledges”はMinor Keyの哀感に満ちたナンバー。語りかけるようなMoellerのVocalが良い。この曲はMark-AlmondのJon Markを思わせるものがある。
アルバム最後を飾るのは“When You Say Goodbye To Me”。呟くような弾き語り。歌詞も泣きたくなるけれどVocalもたまらない。Simpleであるが故に、これほど心に響くものはない。
(Hit-C Fiore)