もはや、冷笑の時代はとっくに終わっていたのだ。
「もし、そこに時間と思いやり、お金、そして平和と愛と理解があれば、このくたびれた家だって新品同様になるんだよ」
Nick Lowe
Nick Loweが書いた名曲“ (What's So Funny 'Bout) Peace, Love, and Understanding”はOld Hippieの視点から書かれたナンバーであったという。Brinsley SchwarzにいたNickがこの曲を書いた当時、つまりバンドとして散々な状況にあったその頃、確かに信じていたある種の夢が終わり、何かを失ってしまった状況に対して一言皮肉を言いたかったNickの気持ちは良くわかる。この曲が書かれた当時、LoveやPeaceは冷笑されるような言葉になっていたのだ。しかしNickは日本の長崎でこの曲を歌い、世界貿易センターで歌ったのだ。転機はElvis Cstelloがこの曲をCoverした時なのかもしれない。それは、皮肉ではなく肯定的な意味を持った歌としてNick自身が歌い始めたのだ。考え方は時代と共に変わらざるを得ない。この曲が書かれた74年から時間は経過し、人々は9・11のGround Zeroや3・11の震災を経験し、現実に直面した。そしてNickはこの曲を歌ってくれたのだ、そう震災直後の来日公演で。Nick Loweが2011年にリリースしたアルバム『The Old Magic』に収録されている“House For Sale”は家を売って出ていかざるを得ない年老いた時の心境を歌っている。そして、“Peace, Love, and Understanding”という一節が出てくる。「もし、そこに時間と思いやり、お金、そして平和と愛と理解があれば、このくたびれた家だって新品同様になるんだよ」とNickは歌う。家を出ていかなければならない人々の気持ち、そして年老いて一人ぼっちになっていくことへの思い。ここでは皮肉ではなく、そういった市井の人々に希望を与える応援歌として響くこの歌を引用しているのだ。
◎The Old Magic/Nick Lowe

英国人らしいCynicalな視点を持ってきたNickが『The Old Magic』というタイトルを付け2011年にリリースたアルバム。上述の“House For Sale”をはじめとしてNickのルーツにある古き良き米国音楽を彼なりに解釈して極上の音楽を紡ぎ出している。それはそういった手法が『古くさい魔法』、『年寄りの魔法』だと揶揄されようが、今でもEvergreenに輝き続けていくこと、いや、今だからこそ、そういった極めてまっとうな音楽的手法が魅力を持ち続けていくことをこのアルバムは証明している。かつて気恥ずかしく、冷笑されていたことが、時代を越えて新しい解釈と視点とともに素晴らしい価値を持ったものとして生まれ変わっていくのだ。
(Hit-C Fiore)