The Slitsといえば『Cut』にばかり脚光が浴びることにより、他の作品がどうしても霞んでしまいがちだ。確かに『Cut』は傑作であるが、解散直前にリリースされた本盤も捨てたもんじゃない。いや、ある意味で、今聴いてもメチャクチャ気持ち良い音で大のお気に入りの音盤なのである。当時は散漫だとか批判されたであろう本作の雑多な音楽性とと好奇心の塊のような既存のスタイルに囚われない楽曲や演奏スタイルとEnsemble、このアルバムのCuteで気持ち良いことといったらない。平凡な男など及びもつかない彼女たちらしい豊かでぶっ飛んだ感性から生まれてくる自由奔放な音楽のアイディアに圧倒されてしまう。デビュー・アルバムにして大傑作の『Cut』に引き続きDennis BovellがProduceを担当したアルバムであるが、本作の評価は不当に低い。タイトで瞬発力のあるドラムを叩いていたBudgieがSiouxsie and the Bansheesに加入するために脱退し、本作ではPop GroupのBruce Smithが素晴らしいドラミングを披露している。Ari Upの相変わらずぶっ飛んだVocalも、本作ではCuteきわまりないChorusを伴い魅力を増している。ギターのViv Albertineの鋭い感性が光るフレージングやTrumpetやTessa Pollittの独特のベースラインも実に素晴らしい。さらにTrumpetやMelodica、Fluteが加わりおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさに満ちている。当時、10代の自分にとっては『Cut』の刺激的なジャケットに続き、ジャケットに描かれたお姐さんたちが怖そうで購入するのに度胸がいったが、今でも聴きたくなる大事な作品だ。
『Return Of The Giant Slits』はThe Slitsが81年にリリースしたアルバム。
アルバム1発目はAfricanなタム連打とViv Albertineのギターの印象的なイントロから始まる“Earthbeat”。これはCuteで気持ち良い彼女たちの魅力がたっぷり詰まった大好きな曲。ドラムのTribalで力強いBeatと対照的な彼女たちのCuteなChorusがたまらない。
VivのギターとTessa Pollittのベースの絡みが最高な“Or What It Is?”。初期のScritti Polittiにも引けを取らない超絶センスの塊のような音響感覚に満ちた楽器のフレージングとEnsembleに感服。ぶっ飛んだAliのVocalも最高。
VibraphoneやMelodica、管楽器まで飛び出すおもちゃ箱をひっくり返したような“Face Place”。
Funkyなギターのカッティングとベースが気持ち良すぎる“Walk About”。
FluteとRocksteadyのBeatが最高にCoolな“Difficult Fun”。
呪術的なBeatとVocalに魔法にかけられるような“Animal Space / Spacier”。ピアノやギター、Bruceのドラミング、Freeに拡散していくインタープレイが素晴らしい。
MinimalなTrumpetとAliのVocalが気持ち良い“Improperly Dressed”。
最後をシメるのは“Life On Earth”。当時はジャケットのようにおどろおどろしい音に聴こえたものだが、今聴けば、このFreeで遊びまくる妖術的なサウンドが稚拙でありながらも中々面白い。
(Hit-C Fiore)