
Neil Youngで一番好きなアルバム。90年代以降の向かうところ敵なし状態のNeil Youngをリアルタイムで知ってはいても初期の名作群である70年代の作品は後追いで聴いて好きになったものばかりだ。80年代の迷走も含めて、時には失敗して絶えずもがき苦しみながら、過剰なまでに何かに挑み続けているようなその姿は、やっぱり魅力的だ。無手勝流で突き進んでいく底知れないパワーと無限の闇を抱え込んだかのようにDarkな部分とが入り混じった作品は強烈な印象を残すとともにロックの奥深さを教えてくれる。そして誰にでも失敗や苦しみや悲しみはあるけれど、それらを受け入れた上で何とか前を向いて歩き続けていこうと力づけてくれるのだ。美しくて儚く、哀しくて辛くて、素朴で過剰でおバカで醜く、激しくてNaive、さまざまな事象が通り過ぎていく中で、険しい道や障害物に何度も行方を阻まれても荒涼とした大地を歩き続けていく。仲間を失い深い悲しみの底にあったであろうNeilが何かに憑かれたかのように作り上げた傑作『Tonight's The Night』は暗いという理由でレコード会社からリリースを止められて、後から制作された本作が先にリリースされることになった。ベースのTim Drummond、Multi-InstrumentalistのBen KeithにCrazy HorseのRalph Molinaを中心に、ラフながらシンプルで味わい深いサウンドがNeilのVocalを浮かび上がらせていく。ジャケットの、一人たたずんで海を眺めているNeilの胸を突き刺すような心情が伝わってくる。ジャケットの左下を見れば、砂浜に埋められたCadillac。絶望に対峙して、悲しみに別れを告げて痛みは追憶とともに甘美に蘇ってくる。
『On The Beach』はNeil Youngが74年にリリースしたアルバム。
アルバム1発目はノリの良い“Walk On”。ベースのBilly Talbot、ドラムスのRalph Molinaは勿論Crazy Horseの残された2人。ラフながらDriveするリズム隊をバックに、なんとか自分を奮い立たせようとNeilが我が道を歩いていく。
心地良いWurlitzerのエレピとSlideギターにのってNeilが切々と歌う“See The Sky About To Rain”。Levon Helmのドラムも良い。エンディングのHarmonicaでもう泣きそう。再結成されたThe Byrdsの73年のアルバム『Byrds』の最後に収録されていた曲。重く垂れこめる雲、Mellowで虚無感が漂う空気、どうしてこんなに切ないんだろう。
続いてもドラムスはHelm、そしてベースにRick Dankoを迎え、ギターにはDavid Crosbyというメンツでの“Revolution Blues”。マイナー・キーでNeil節が炸裂、十八番のよたり気味のギター・ソロも最高。
BanjoとSlideの響きがイイ感じの“For The Turnstiles”。Ben Keithの弾くDobroも良い。
力の抜けまくったBlues“Vampire Blues”。
イントロのざらついたギターのカッティングから持っていかれる“On The Beach”。気怠く歌うNeil、海の前に一人佇むジャケットまんまの世界。そしてアルバム全体に漂う内省的で、自らを追い詰めていくかのようなDarkなムードが、挟み込まれるMajor Seventhの響きと相まって胸を掻きむしられるような気持ちにさせられてしまう。ブーツを脱ぎ捨て、海を眺めているNeilは一体何を思っているのだろう。Wurlitzerを弾いているのはGraham Nash。
心地良いアコギとHarmonica、Percussion、何よりRusty Kershawの弾くSlideが最高の“Motion Pictures”。大好きな曲。
最後を飾るのはアコギの弾き語り“Ambulance Blues”。Rusty KershawのFiddle、そしてNeilのHarmonicaが明るさを装った悲痛な心の叫びのようにいつまでも鳴り響いている。Bert Janschの“Needle of Death”からメロディを引用している。
(Hit-C Fiore)