
夏が終わり、心地良い秋の風に気分上々で街を歩いていると、なぜか、ふとAzymuthのあの曲が聴こえてくる。NHK FMの深夜番組『クロスオーバー・イレブン』のテーマ曲だったナンバー。子供の頃、かなり背伸びをして大人の世界を少しでも覗き込もうとしていた自分にとってラジオは欠かせないものであった。今とは違ってネットもなかったし、TVは一緒に生活していた祖父母がスポーツや時代劇を見ていたため、自分が大人の世界をメディアを通じて知る唯一の手段がラジオだった。FMを聞き始めたきっかけは、FM東京で『音の本棚』という番組を聞くようになってからだ。SFやミステリー小説を好きになるきっかけとなった番組であった。そしてNHK FMの件の番組と出会うことになる。最初は音楽ではなくて、ドラマ仕立てのスクリプトと呼ばれる物語/エッセイが目当てであった。そして、その合間に流れるジャンルおかまいなしの選曲(当時はそんな事もわからないガキであったが)に夢中になり、そこで出会った音楽は10代の自分に大きな影響を与えたものであった。男性俳優さん達の渋くてDandyな語り口もあってか、そこで紹介される音楽も都会で日々を送っている大人たちの響きとでもいうのであろうか、憧れのモノであった。大好きなOregonとの出会いもこの番組であった。
鍵盤奏者José Roberto Bertramiが惜しくもこの世を去ったという知らせが届いた昨年の夏、大きな喪失感を味わった。いうまでもなくAzymuthといえば、この人が弾くFender Rhodes、Mini Moog、Arp StringsにHammondである。自分にとって、恐らくそれらの楽器を意識的に心地良いと感じた最初の音であった。想像力を精一杯ふくらませて、音楽だけじゃなくさまざまな妄想の世界で遊んでいた自分にとって、正にうってつけのSoundであったのだ。Azymuthを結成する前にBertramiが残した本盤では、タイトル通りのOrganが中心となっており、ArpやMoogも登場しない。それでもBertramiの独特の音使いやサウンド・センスは味わうことができる。
『Organ Sound』はJosé Roberto Bertramiが残した1stリーダー作。65年のピアノ・トリオ作『Jose Roberto Trio』などで既に独自のフレージングを披露していたBaertramiであるが、ベースのAlex Malheiros、ドラムスのIvan Contiと出会い、Projeto IIIを経てAzymuth誕生へ向かう時期の音盤である。独創性の高い彼らのオリジナルではなく、本盤の中心はCoverである。とはいえ、2曲ではあるがBertramiのオリジナルが収録されている。まだまだ個性を確立する前の作品だが、後のスタイルとは異なるFunkyなRhtthmを前面に押し出してイナタささえ感じさせるノリ重視な仕上がりなのが中々興味深い。
アルバム1発目はBertrami作の“Aventura”。Horn隊とHammondがFunkyなリズム隊にのって軽やかに躍動する。
The Flyng Machineの“Smile A Little Smile For Me”はカッコイイJazz Waltz風に始まり、いきなりイナタいイージー・リスニング風演奏へ驚愕の変貌を遂げるのが笑える。
Alfred Newman作曲の映画『Airport』挿入曲“Airport Love Theme”は和み度100%の心地良いShuffle。
続いてもユルユルなノリが気持ち良い和みBalancoな“Toboga”。
脱力してノリノリのThe Archiesの“Jingle Jangle”は何ともコミカルなこの時代らしいなげやりなハッピー感が面白い。
イントロから最高の名曲“Viagem”。Som ImaginarioのギタリストFrederico Mendonça de Oliveira作。Chord進行、メロディー、音色、全体のArrangementsが全て心地良い。
“Samanta”はアコギのArpeggioとPercussionが作り出す心地良いRhythmにのってHammondとHorn隊が優しい光が差し込むような高揚感に満ちた至福の時を演出する。
The Guess Whoの“No Time”はRetroなノリだけどエンディングのHammondソロは短いながらもカッコイイ。
Roberto Carlosの69年のヒット曲“Diamante Cor De Rosa”。昼メロのテーマ曲的なこの曲を大人な仕上がりで都会の夜を感じさせるBertramiに脱帽。
Funkyで重たいノリのContiのドラムスと対照的にHorn隊とHammnodが軽快にぶっ飛ばす“The Rapper”。
Bertrami作の“Mon Ami”。ベースがFunkyに動きまくりHammondとカッティング・ギターがいかにもなJazz Funk。
最後は“Always Something There To Remind Me”をお気楽Cover。力の抜けた感じがなんとなく秋を感じさせてくれる。
(Hit-C Fiore)