
Ry Cooderもまた、新作がいつも待ち遠しくて、無条件に作品を買い続けてしまうMusicianの一人である。そしてそういう音楽家の常として駄作がなく、全ての関連作を追いかけようとすると大変なのである。Ryの作品を聴くことは米国音楽探求に始まり、その周辺諸国、果ては遥かに拡がって日本も含めた世界各国へと、果てしない音楽の旅をするようなものである。Africaや欧州の音楽とが結びついているのが古き良き米国音楽であり、Ryの初期3作はそういった米国に古くから伝わる音楽を巡る旅を続け南部に辿りつく。そこからMexico、Texasときて、ついにTex-Mexとの邂逅、そしていよいよ人種や国境のBorderを越えてRyの活動は世界に拡がっていくのである。Flaco JimenezやGabby Pahinuiとの出会いがRyの音楽に、より芳醇な味わい深さを加えていったのだ。ところが78年にリリースされた作品『Jazz』以降のアルバムでは再び米国の伝統音楽ともいうべきJazzやR&B、Soulへ目を向けた作品が続く。勿論、Ryらしい古き良き伝統の中から目の前の現実に対峙した生命力を持った音楽を蘇生させていく才能は冴えわたっている。『Jazz』に続く本作は、自らのVocalも前面に出したR&B、Soulを取り入れた路線へ積極的にシフトしていくきっかけとなった。丁度、映画音楽の仕事が次から次にRyに依頼され始めた時期でもある。Ry自身はどう思っているかはわからないが、実はこの時期の作品も自分は大好きなのである。そうはいっても本日ご紹介する音盤は、名作揃いのRyの作品の中でも、その当時の録音方法もあって、評価が必ずしも高い方の作品ではないかもしれない。しかし、個人的にはかなりのお気に入り盤であり、楽曲も好きな曲ばかりで思い入れも相当あるのである。そして何より、この季節にたまらなく聴きたくなってしまうアルバムなのだ。
『Bop till You Drop』はRy Cooderが79年にリリースしたアルバム。Produceは本作もRy Cooder自身が担当。お馴染み、ドラムスのJim Keltnerに鍵盤のRonnie Barron、PercussionのMilt Holland、ベースはTim Drummond。弦楽器の鬼才David Lindleyやと豪華な演奏陣。鍵盤奏者にGospel系のPatrick Hendersonを迎えているのもニクイ。Bobby Kingを筆頭にGreg Prestopino、Herman E. JohnsonにRandy Lorenzo、George "Biggie" McFadden、Bill Johnson、Simon Pico PayneといったGospel StyleのChorus陣も充実、その上Chaka KahnがVocalでFeatureされるときたもんだ。
アルバム1曲目からGospel Chorus隊が早速大活躍するノリノリの“Little Sister”。Elvis Presleyの歌で知られるこのナンバーをSoulfulに仕上げたRyは最高。ギター・ソロも素晴らしい。ホーホーホーと一人で盛り上がってしまう。
Arthur Alexanderの“Go Home, Girl”。この泣きの名曲をReggae調に仕上げている。
力強いBeatを持つ“The Very Thing That Makes You Rich (Makes Me Poor)”はLindleyのSlideが隠し味風に登場しつつも実に効果的だ。後半のChorusとのかけ合いで盛り上がっていくあたりも憎い。
珠玉のインストに仕上げた“I Think It's Going to Work Out Fine”。LindleyのLap Steelに絡むRyのSlideが、これまた絶品。これは泣きますわ。
RyとTim Drummondとの共作“Down in Hollywood”。これはHypnoticなベース・ラインとChaka KahnのどエロなVocalも加わり実にFunkyな仕上がり。RyのVocalもカッコイイし、Keltnerのドラムスも得意のRollのFillを使ってイイ感じ。
Howard Tateの歌唱で知られる“Look at Granny Run Run”は粘っこいSlideとChorusが最高。隠し味のMandlinも良し。
Chorus隊がイントロから活躍するFrederick Knight作の“Trouble, You Can't Fool Me”。この曲もSlideが絶品。
再びChaka KahnのVocalをFeatureした重心の低いFunky Tune“Don't Mess Up a Good Thing”。かけ合いするRyのVocalも負けていない。Slapも飛び出し、RyのSlideも黒っぽさを強調した粘り腰。Jim Keltnerのドラミングも重たいBeatを叩き出して気持ち良い。
最後はSentimentalな“I Can't Win”でSoulfulに盛り上がりまくり。Bobby KingのFalsetto Vocalが気合入りまくり。Ryのオブリやオルガンも泣けといわんばかりのプレイで最高。それにしても後半のChorus隊の熱唱が素晴らしい。魂入りまくりっす。
(Hit-C Fiore)