Mel/Maria Bethania  | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

$BLACK CHERRY
  Maria Bethaniaといえば、どうしてもCaetano Velosoの妹、あるいは亡命せざるを得なかったCaetanoやGilberto Gilが去ったBrasilでGal CostaとともにTropicaliaを気高く支えた女性というイメージが、自分には強かった。それはMaria自身も当然わかっていただろうし、兄Caetanoという存在を臆することなく、むしろ誇りとして彼女は歌い続けてきた。しかし、それらをあえて一切無視して、一人の歌手としてのMariaを考えてみると、HuskyAltoの歌声と抜群の表現力が醸し出す一種独特の雰囲気が魅力的な歌い手である。彼女の選曲のセンスも素晴らしいし、残念ながら生のステージを観る機会がなかったのでわからなかったのだが、DVDなどでその映像を観るたびに表現者としてもEntertainerとしても才能がある歌手であるとの認識を新たにしている。時に色っぽくなったり、凛とした男前な女性としての力強さを感じさせたり、Elegantで高い芸術性を持っていながら、限りなく庶民的なBaianaな一面もあったり、情熱的かと思ったらCoolであったり、あまりにも触れ幅が大きく多面性があるがゆえに、その魅力はBrazil以外の国の人々には上手く伝わっていないのかもしれない。もしかしたら元々が演劇を志していたということから、そういった多面的な幅広い表現力に長けた才能があるのだろう。また、神々しさというか、高貴というか、力強く、そのあまりに近寄りがたくて、チョイ中性的な歌声に抵抗がある人もいるかもしれないが、一度先入観無なしに聴いてみると、歌手としての実力の高さに驚かされるだろう。

 『Mel』はMaria Bethania79年にリリースしたアルバム。兄Caeanoの曲やChico Buarqueといった優れた作曲家に加えてJoyce、GonzaguinhoAngela Ro Ro、Minas出身のTulio Mouraoといった当時台頭してきた才能が生み出した素晴らしい楽曲を選んだMariaのセンスが素晴らしい。このアルバムは、そういった名曲揃いのアルバムであるが、ピアノやギターの演奏のみで歌い上げる作品では、Mariaの歌手としての魅力と高い実力が、より一層引き立っている。
アルバムのオープニングはCaetano作のタイトル曲“Mel”。いきなりSteel Guitarがアメリカンな雰囲気を醸し出して一瞬驚くが、Caetano節ともいえるメロディーが楽しめるナンバー。
続いてもCaetano作で泣きのメロディーを持つ“Ela E Eu”。
Cheiro de Amor”は、この時代らしい洗練されてMellowなサウンドにのせて Bethaniaの歌声もイイ感じ。
Joyceが作者に名を連ねる“Da Cor Brasileira”もエレピやStringsに彩られたRomaticな雰囲気のナンバー。
CaetanoやGal Costaも取り上げてきた作曲家Lupicínio Rodrigues。そのSentimentalな作風が前面に出た“Loucura”はDramaticに歌い上げるMariaの表現力の高いVocalに脱帽。
Angela Ro Ro作のBalladGrito de Alerta”。Ro Roのピアノのみをバックに歌うMaiaの憂いに満ちたVocalが素晴らしい。
GonzaguinhoことLuiz Gonzaga Jr.作の“Grito de Alerta”。これも魅力的なメロディーを持った名曲。
Tropicalな雰囲気が、やはり限りなくLate 70'sな“Lábios de Mel”。
Chico Buarque作の名曲中の名曲“Amando sobre os Jornais”。これも反則というぐらい素晴らしい出来。
Minas出身のピアニスト/作曲家のTulio Mourao作“Nenhum Verão”。これも再び、作者のピアノのみMinasの香り漂う魅力あふれるメロディーをしっとり歌い上げる。
Gonzaguinhoが提供した2曲目は“Infinito Desejo”。高揚感に満ちたメロディーとサウンドが何とも心地良いアルバムで一番好きなナンバー。こうやって聴いてみると当たり前だが、Gonzaguinhoは、硬軟使い分けできる素晴らしいSongwriterである。
最後を飾るのはCaetano作“Queda d’Água”。ギター1本で歌い上げるMariaの情感に満ちた歌声が素晴らしい。この余韻を残す終わり方も最高。
(Hit-C Fiore)