
ヤンキースで活躍する黒田投手の男気あふれるピッチングも大好きだが、ダルビッシュ投手の大ファンである。しばらく野球から興味が離れていた自分に再び目を向けさせてくれた才能のある投手だ。まず投球フォームが素晴らしい。また、そのスケールの大きく、考え抜かれた投球術が見ていて面白い。最近は高校生で時速160Kmの剛速球を投げる投手など才能豊かな若手が日本の野球界から誕生している。正々堂々と勝負する野球を見たい。自分は祖父の代からの巨人ファンの家庭に育ったが、阪神のバース選手の年間最多ホームランの記録がかかった最後の試合で巨人の投手たちがストライクを一球も投げなかったのを見て巨人ファンを止めた。この試合は日本のプロ野球の凋落を象徴するものだったと思っている。また、日本の野球をつまらなくしてしまった野村のなんとか野球以降のセコセコした野球とはスケール感が違う、見ていてドキドキ楽しくなる選手の力と力がぶつかり合う野球の醍醐味を、自分は求めていた。だからダルビッシュのピッチングは見ていて楽しいのだ。トレーニングの意識改革の必要性を訴えるなど、ダルビッシュの剛柔一体となったピッチングは彼なりのStoicな自己管理能力の高さと野球観に基づいたものだとわかる。緩急自在の、しなやかでダイナミックな投球で、これからも楽しませてもらいたい。
さて、大好きなピアニストAhmad Jamalである。Jamalの場合、Miles Davisに影響を与えた独特の空間の使い方や、抑制美といった初期の演奏スタイルが取り上げられることが多い。Jamalはその初期からImpulse!時代、そして現在に至るまで、その演奏スタイルを思うがままに変化させてきた。厳選された音符と休符を生かしSophisticateされた空間で魅了する初期から、Modalでよりスケールの大きい演奏を目指したImpulse!時代、次はFender Rhodesなど電化サウンドを取り入れた70年代、そして生ピアノに回帰してAggressiveに弾きまくりで現在に至っている。そのスタイルの変遷は、しかし一本筋が通っているものである。それは、1台のピアノで、どこまで表現できるかの可能性の追求、自分の創造力と表現力への挑戦、あくなき探求心である。だからJamalは、いつの時代でも正にInnovativeなピアニストであり、作曲家、編曲者としての奥深さを感じさせる存在であり続けている。Scott Joplin、Earl Hines、Nat King Coleの伝統を受け継ぎながらも新たなる表現の可能性を求めて前進し、聴くものの想像力を刺激するピアニストなのだ。本盤では、十分な技巧を持ちながら、あえて速弾きなどで、それをひけらかさずに独特のタイム感とリズム隊のコンビネーションで聴かせる。メロディーを解体し曲のTempoやStructureを自由自在に操りリスナーの想像を掻き立てる。それにしても80歳を越えた現在のJamalのタッチの力強さに比べて、若き日のJamalの軽妙洒脱な指さばきに驚く。やもすればカクテル・ピアノなどととられかねない軽やかさと力の抜き方。それは勿論意図的なものであり、Jamalが仕掛ける洗練された謎かけはMonkのような重厚さはないかわりに、我々を軽やかにJazzの旅へと誘ってくれるのだ。
『The Legendary OKEH & Epic Recordings』はAhmad JamalのPiano Trioが51年、52年そして55年に録音した作品をCompileしたもの。The Nat King Cole Trioと同じドラムレスのTrioはピアノにベースとギターという編成。年録音の『The Ahamad Jamal Trio』全曲と59年リリースの『The Piano Scene of Ahamad Jamal』から“Slaughter On 10th Avenue”(これも洗練されたBalladに仕上げた名演)を除く11曲を収録している。ギターはFletcher HendersonのOrchestraに在籍していた知られざる名手Ray Crawford。後にGil Evansの『Out Of The Cool』に参加しているのが興味深い。
ベースは51、52年録音はEddie Calhoun、55年の録音からはIsrael Crosby。
アルバム冒頭から50年代中期以降にMilesがレパートリーとした作品を4曲続けている。
Miles Davis QuintetのPrestige4部作の『Steamin'』での名演で知られる“The Surrey With The Fringe On Top”。軽やかなJamalのタッチに魅了される。
“Will You Still Be Mine”ではPercussionを模したCrawfordのバッキングとJamalの粋なブロック・コードで絶妙のEnsembleが楽しめる。
Jamalの自作曲で“Ahmad's Blues”。いわゆる定型の12小節のBluesではないところや、メロディーも一捻りしたところがJamalらしいナンバー。
“A Gal In Calico”は軽快にSwingするナンバーで、Crawfordのコードワークとバッキングのアイディアが素晴らしい。3人の丁々発止が実に楽しい。
もう1曲のオリジナル“Aki And Ukthay”。Rhythmといい、刻々と表情を変えていくフレージングといいJamalの曲は本当に魅力的だ。タメと突っ込み、抜群のArticulationに聴き手は身体を揺らしながら惹きこまれてしまう。
“Billy Boy”ではCrawfordのギター・ソロが素晴らしい。この曲も58年のアルバム『Milestone』でMilesが取り上げている。
Duke Ellingtonの“Black Beauty”は最高。洗練された黒さとでもいうべき、このスタイルは初期のJamalらしい。
本盤が初演となった“Poinsiana”は大ヒットした58年録音に比べると、ドラムがない分、よりマッタリ感が増している。
Cannonball Adderleyの『Somethin' Else』でフレーズをまんまいただいた“Autumn Leaves”もCrawfordのPercussiveなバッキングでLatin風味で仕上げている。
アルバムで一番のお気に入りはFats Wallerの“Squeeze Me”。
55年にしてModalなアプローチが興味深い“Pavnne”。
“The Donkey Serenade”もJamal流の料理法で絶品の出来。
◎Ahmads Blues/Ahmad Jamal Trio
Steel drumをまじえたQuartetで
◎Poinsiana/Ahmad Jamal Quartet
◎最近の御大の勇姿 80歳を越えてるとは思えないほどガンガン弾きまくりっす!
(Hit-C Fiore)