Coast Concert/Bobby Hackett And His Jazz Band | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC


 毎年ぼやいている確定申告の時期の憂鬱であるが、とにもかくにも毎年この時期はバタバタしてしまうのが決まっているわけだから、気合を入れて一気にやってしまうことが大事なのだ。ただし高いテンションはそんなに長く続かないから適度な息抜きが必要になる。そんな時にはホッと一息つきたくなる和み盤を用意しておくことが肝要である。
 さて、Jazzお気に入りレコード〝コートを着たJazzmen〟シリーズ第三弾にして、今回のシリーズの最後を飾る音盤。雨上がりの空港に降り立ち、満面の笑みを浮かべ一服しているBobby Hackettの表情を捉えたジャケットから伝わってくるホノボノとした雰囲気、これが見るからに心を和ませてくれる。Dixieland Jazzというと、何となく敬遠してしまう人もいるかもしれないが、是非、騙されたと思って聴いて欲しいものである。気心知れた仲間たちと一緒に音楽を楽しそうに演奏するこの時のBobby Hackettは、ジャケット通りのご満悦の表情だったに違いない。Glenn MillerBenny Goodmanのバンドでお馴染みのTrumpetCornet、Guitarを演奏するシャレオツDandyな人物である。CornetistとしてのHackettは、Bix Beiderbeckeからの影響が頭に思い浮かぶが、フレージングも含めると、Louis Armstrongにも近いものがあるように感じられる。つまりCool洗練されつつ、美しく心に響く演奏で楽しませてくれるということである。
 Jazzというのはアドリブが命、即興演奏に自分の存在価値をかけている音楽家も多い。ThemeのChord進行にのせていかに自分を表現した旋律を即興で作り出していくかがキモなのだ。それはJazz Vocalも同様で、ただJazzのStandardを歌ったからといってJazz Vocalになるものではないのが面白い。Sarah Vaughnあたりだと演奏者も真っ青のフレージングを繰り出す。演奏者も、絶えず楽曲やEnsembleを生かすようにしながら工夫してフレーズを繰り出す。即興でフレーズを作り、そこにb5thや#9thがあったりChromaticなラインがあり、シンコペかましたりしてRhythmとの兼ね合いと使い方次第で洒脱だな(笑)となるのである。Bobbyさんは、Dixielandをやっても、この半音の使い方が実に上手い。だからたまらなくJazzを感じるのである。

 『Coast Concert』は55年にリリースされたBobby Hackett And His Jazz Bandのアルバム。CornetとTrumpetを演奏するBobby Hackettが自ら人選したメンバーはTromboneにJack Teagarden、ClarinetにMatty Matlock、TromboneにAbe Lincoln、ギターとBanjoにNappy LamareDon OwensのピアノにNick Fatoolのドラムス、Phil StephensがベースにTubaという気心知れた鯔背な仲間たち
1発目はLouis Armstrongでお馴染み“Want a Big Butter and Egg Man”。気分は一気にNew Orleansへ。
続いてはHoagy Carmichael作の、その名も“New Orleans”。Tromboneも沁みますなあ。
だれもが一度は聞いたことがあるだろう1910年代の名曲“That's a Plenty”。古き良き時代のRagtimeな雰囲気が何ともイイ感じ。
Jack Teagardenの渋い喉が披露される“Basin Street Blues”。
またまたLouis Armstrongでお馴染み“Muskrat Ramble”。特に後半のNew Orleansらしい楽器が対位法をとり重なり合うEnsembleで盛り上がるところが最高。
Wall Street Crash1929年に発表されたやるせないBalladI Guess I'll Have to Change My Plan”。
1910年代、最初期のJazzのレコードを出したと言われているOriginal Dixieland Jass BandによってPopular化された“Royal Garden Blues”。
Struttin' With Some Barbecue”もLouis Armstrongで知られるナンバー。HackettのElegantな装飾を散りばめた旋律は流れるように心地良く響き、そして元気づけてくれるのがいい。
Bobby Hackett Quintetで50年にも録音している“Fidgety Feet”は、さすがのノリ。
最後のシメは再びTeagardenのVocalが沁みる“St.James Infirmary”。
(Hit-C Fiore)