
去年はBritish TradとBluesとChoroを聴くことが多かった。Bert Janschが10月に、この世を旅立ってしまってからは、特にJanschのソロ・アルバムとThe Pentangleのアルバムを聴きまくっていたのだが、中でも以前から愛聴していた本作は自分の中では昨年一番聴いたアルバムかもしれない。実はJanschの数あるアルバムの中でも、本作を地味に感じていたことを告白しなければならない。自分にとって無頼派のイメージがJanschの最もカッコイイ部分で、少々ラフな歌いっぷりや、技巧的でありながら勢いかつノリ重視でバチバチと弦をフィンガー・ピッキングするギター・スタイルが大好きだった。本作では、Janschの持ち味である、そういったWildな部分は前面に出ずに、多彩なゲストを迎えながらも大人の落ち着いた雰囲気が漂っていたことから地味に感じたのかもしれない。Janschは、繊細かつ超絶技巧をStoicなまでに極めていくイメージのPentangleのもう1人のJohn Renbournに比べれば、ある意味対照的なギタリストともいえる。だからこそ、2人のギターの絡みは面白かったのだろう。自分は勿論2人とも大好きだが、Janschの、自由気ままで下手すると道を外してしまいそうなヤンチャな部分に憧れるところがあった。また、朴訥としたVocalは、ともすればモッサリした印象を与える場合もあるが中々味わい深く、人間味溢れる魅力がある。かつてギタリストのJanschを追い求めて60年代のTransatantic時代のアルバムを聴きまくっていたけど、Pantangle解散後のJanschのアルバムを聴いて、そのSinger-Songwriterとしての魅力にも惹きこまれていったのだ。
『Moonshine』はBert JanschがPentangle脱退前の72年に録音して、バンド解散後の 73年にリリースされたBert Janschのアルバム。ProduceはPentangleのベーシストDanny Thompson。ArrangeはTony Visconti。
アルバムのオープニングはTradナンバー“Yarrow”。Viscontiがベースを弾き、ドラムスはFairport ConventionのDave Mattacks。Fluteも効果的だ。
続いてもTradの“Brought With The Rain”。盟友Ralph McTellのHarmonicaが実にイイ雰囲気を醸しだしている。ThompsonのDouble Bassも良い。
Dave Goulderの書いた名曲中の名曲“The January Man”。名手Skaila KangaのHarpも幻想的な美しさに満ちている。
Jansch作のBluesyな“Night Time Blues”は大好きなナンバー。Aly BainのFiddleが素晴らしい。
B面のトップはJanschの書いたタイトル曲“Moonshine”。CelloやFlute、Clarinetも牧歌的な雰囲気を出している。
Ewan MacCollの“The First Time Ever I Saw Your Face”は当時Viscontiの妻だったMary HopkinとのDuet。ドラムは何とThompsonが連れてきたというDannie Richmond。
Tradの“Rambleaway”は3拍子の幽玄なナンバー。なぜか参加しているGary Boyleがエレキを弾いている。
Scotland民謡の“Twa Corbies”。Glasgow生まれのJanschが思いいれタップリに歌っている。弦をバチバチさせているのも熱い想いが伝わってくる。
アルバム最後をシメるのはJansch作のBluesyなナンバー“Oh My Father”。やはり Boyleがエレキを弾きまくっている。バンドの演奏も泥臭く力強さに満ちている。こういう曲でのJanschのVocalは中々味わい深い。
(Hit-C Fiore)