
なでしこジャパンの大活躍は、本当に日本中の人々に勇気と気力を与えてくれたように思う。色々と困難な状況の中で、あきらめずに鍛錬を続けてきた彼女たちに頭が下がる思いである。どんな形であれ、その道をずっと続けていくことは大変なことなのだ。Musicianの場合は年を重ねて失われていく感性や気力や肉体的な衰えを、ある程度、経験や技巧により補うことはできるかもしれない。しかし、常に、自身の肉体や精神力と対峙しながら結果を追い求められるスポーツ選手の場合は、そう簡単にいかないだろう。宮間さんの鮮やかな左クロスを、澤さんが豪快にゴールに叩き込み日本中から歓声がわきおこる瞬間を心待ちにすることにしよう。
さて、イタリア映画『海の上のピアニスト(La leggenda del pianista sull'oceano)』のピアノ演奏でも、一般的に名を知られるようになったAmadeo Tommasi。Ennio Morriconeが音楽を手掛けている、この映画でTommasiは演奏のみならずMorriconeとともに曲を書いている。クラシック・ピアノを学びながら、忌まわしき世界大戦により、その道を一時断念せざるを得なかったTommasi。しかし、戦後再びピアノを弾くことをあきらめずに、Tommasiは大学に入って学びなおしている。そして、Jazzの道へ歩み、実績を積み上げてきた今やイタリアJazz界の重鎮の1人である。Tommasiといえば、イタリアのムショ帰りのChet Bakerの62年のRoma録音『Chet Is Back』への参加や、そのリズム隊をイタリア勢にチェンジした『Thomas - Jaspar Quintet』(最高!)が知られているところ。どちらでもTommasiは1曲だけだが素晴らしいオリジナル作品を提供している。また、以前紹介したModern Jazz GangのCicciとEnzoを迎えての『Zamboni 22』や、彼らと参加したサントラ『Gli Arcangeli』でのTommasiのプレイが印象的だ。その一方で映画音楽や数々のLibraryモノを手がけている。その中ではBrazilianな大傑作『The Sound』とNarassa名義の『Made In U.S.A.』が素晴らしい。そして異色のLibraryモノが本盤『High Tension』である。あくまでもJazz盤ではなく、Tommasiの才能の一部が発揮された音盤であることにご注意を。
『High Tension』はイタリアのLibraryレーベルCenacoloに残されたAmedeo Tommasiの81年作のLinrary Music。これがMinimalで妖しい響きの実験作のようで、70年代のヨーロッパのProgressiveな香りが感じられる。何の芸のないジャケットは、B級ロック・グループ風だけど、内容は中々楽しめるMondoな一品。
6/8拍子で動き回るシンセ・ベースが面白い “Terrorismo”。
Stringsと電子音がSuspense映画音楽風の“Indagine”。
ピアノが6/8拍子にのってMoogとともに不穏な響く“Attimo Tragico”。
シンバル・ワークとシンセ・ベースにのってオカルト映画のサントラのような展開をみせる“Fascia Ossessiva”。
Percussionの連打とHammondが幻想的な空間を作り出す“Ipertensione Ossessiva”。
Hornのリフとシンセ・ベースにのってギターやJazzyなピアノが飛び出す“Action”。
心地良いハイハット・ワークが刻む無機質なリズムとPercussiveなリズムが交錯する上をシンセが独特の世界を描く“Strategia Della Tensione”
続く“Attentato”と“Attentato - 2a Versione”もハイハットのクローズにタムで作り出すリズムにMinimalなピアノのフレーズ、エレピの響きが妙に気持ち良い。後者はシンセが加わり70年代のGerman系Synthethizer Musicな雰囲気も。
エコーがかかったシンバルに電子音が、これまた怪しい雰囲気ムンムンの“Psicosi Oggi”。
Minimalなピアノとシンセベースが麻薬的な“Mafia”。
最後は6/8拍子のタイトル曲“High Tension”で、これも70年代のProgressiveなノリ、それも大好きなCanterburyの香りが漂う作品。
(Hit-C Fiore)