Oui/Pierre De Bethmann | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 Pierre De Bethmannの音楽はPrysmの頃から、一時かなり追いかけた。彼のソロ転向後のアルバムは実は、かつての熱がさめてしまっていたのだが、それはそれで、ある種の人々を魅了するものであろう。本作『Oui』は変拍子マニアには、たまらないものがあって、加えてRhodes女性Scatとくれば、これはさすがに狙ってるだろうというか、チョッと反則だろうというところ。個人的には、もう何年もRhodesを弾くことを封印しているので、懐かしいという思いもあり。21世紀にRhodesを堂々と弾くというのはどんなものかという賛否両論もあるけれど、70年代後半の音楽好きな自分にとっては、やはり抗えない魅力を感じる音であることも事実である。Pierre De Bethmannというピアニストに出会ったのはPrysmという、ピアノを弾くBethmannとベースとドラムスという編成のトリオ。非常に高度な技を3者が繰り出しあいながらCoolな高揚感で聴き手を圧倒する彼らの音楽に興奮して、仏Blue Noteから発売された彼らの作品を聴き漁ったものだ。特に最終作となったLive盤『On Tour』には4beatを機軸に変拍子展開していく彼らの本領発揮といった、理知的で熱い演奏が収録されていた。考え込まれた複雑なCompositionと超絶技巧が、即興という形態を取り入れながら、洗練と心地良さに見事に収斂されていく音楽は自分にとっても理想と言えるものだったのだ。Bethmannの作曲能力とピアノ・テクニックもさることながら、ベースのChristophe Wallemmeも太鼓のBenjamin Henocqの実に優れた技能の持ち主であっただけにトリオが解散してしまった事を知ってがっかりしたのであった。その後、ソロ活動を開始したBethmannには、正直、物足りなさが残るものである。Bethmannが参加したMotin兄弟との作品でも、彼の演奏は、どこか淡々としていて、あのPrysmでの醒めた熱気のような演奏には及ばなかった。リーダー作3枚を発表しているBethmannは、どうやらRhodesを前面に押し出す作風が定着してしまった。いつの日か、またアコースティック・ピアノを弾いて欲しいのである、それもピアノ・トリオで。


 『Oui』はPierre De Bethmannの通産3枚目のリーダー・アルバム。2007年にリリースされた。エレピ弾きに徹してしまったかのようなソロ活動後のBethmannであるが、女性Vocalを導入した本作でも70年代のJazz Funkから黒さを排除し、英国風と言うかHatfield and the NorthTurning Pointのような女性Scatを取り入れたCanterburyの音楽を狙ったような路線を追求している。勿論、彼の本質である変拍子を多用したModalな作風は健在である。また虚空に幾何学模様を描き出すかのようなRhodesのフレージングは、前作より進化している。つまりアコピではないRhodesならでは引立つAmbientで浮遊感あふれるフレーズを理解して弾いている。BethmannがIliumというQuintet(プロジェクト?)を立ち上げた時から不動のメンバーに加えて、本作ではJeanne Addedという女性Vocalが参加している。Ilium QuintetではMichael Felberbaumという才能豊かなギタリストが面白い存在でAdam RogersKurt Rosenwinkelといった、既にシーンを牽引している新世代ギタリストに、どれだけ迫れる存在になれるか注目している。彼のソロ・アルバムにはPierre De Bethmannも参加している。Sax奏者のDavid El Malekもまた、浮遊感のあるフレージングを得意とする人で、今回は女性Vocalも加わった事によりますます複雑なパズルのように綿密に組み上げられた音楽にやわらかい色彩感を与えている。得意の変拍子と転調を駆使しつつ、前作までの多少Darkな色調から、より多彩な面も見せ始めたBethmannは過去の遺産に学びながらも近未来へのJazzの道を模索しているのかもしれない。

 まもなく
Pierre De Bethmannの新譜Cubique も発売されるようだ。メンツは本作と同じであり、Bethmannは、このアルバムの出来に満足し手ごたえを感じているのだろう。


Pierre De BethmannのOfficial Website→Pierre De Bethmann

Michael FelberbaumのMySpace→Michael Felberbaum

(Hit-C Fiore)