Dr.Johnといったら『Gumbo』だろ、とか『In the Right Place』のMetersは最高だろ、とかいう声は重々承知の上で、『City Lights』をとり上げてみる。いや、結構好きな盤なのだ。Neon Parkが描くジャケットが好きで買ってしまったアルバム。実は初めて買ったDr.Johnのレコードが、これなのだ。この印象的なジャケットがあらわしているようなシュールで、何となくEroticな大人の世界を垣間見せてくれるような世界。子供のくせに、そんな映画や音楽の世界に憧れていた早熟な自分であった。Tommy LiPumaが集めた腕達者なMusicianが作り上げる高層ビルがそびえたつNYの夜を思わせるサウンド。Coolな表情を浮かべた遊びなれた大人の香りを漂わせている。そんな都会の夜のしじまを徘徊するのはNew Orleansの安酒場のピアノ弾き。Dr.Johnといえば、何が何でもNew Orleansという方々からはお叱りを受けてしまいそうだけれど、Dr.Johnの泥臭いVocalと幾千もの顔を持つ夜の摩天楼を思わせる音世界が作り出す不思議な味わいは唯一無比。ミスマッチで失敗するだろうと思う人がいてもおかしくない取り合わせを見事に仕上げてしまうのは、やはりTommy LiPumaの冴えた手腕によるもの。
『City Lights』は78年に幻のレーベルHorizonからリリースされた。HorizonはBlue Thumb RecordsでもProducerとして活躍したTommy LiPumaが指揮をとり、短い間ながらも素晴らしい作品を世に送り出している。その中でも、このアルバムはレーベルを代表する作品といっても良いだろう。ProduceはTommy LiPumaと、NY中心に活動していた名セッション・ギタリストHugh McCracken。HorizonといえばBen Sidranの『Cat and the Hat』という名作があるが、他にもMark-Almondの『Other People's Rooms』などという70年代後半の音楽の最も洒脱で洗練されたオイシイ音楽が眠っているレーベル。そして正に78年という、この時代の粋を集めた都会的な音が、このアルバム全体に漂っている。そして、そんな場違いの世界に迷い込んだDr.Johnのダミ声をClaus OgermanのStringsArrangementは柔らかく包み込み、大人の御伽噺を語り始める。Tommy LiPumaが集めた豪華な顔ぶれのMusicianの中でもFull Moonのメンバーだった鍵盤のNeil LarsenとギターのBuzzy Feitenは彼のお気に入りだったのだろう。鍵盤ではRichard Teeのエレピも当然、聴きものである。そしてギターではJohn Tropeaも参加している。David Sanbornは歌モノでも素晴らしいプレイを披露する人で、このアルバムに色気と華やかさを加えている。Will LeeとSteve Gaddのリズム隊は都市の鼓動をスリリングに、的確に伝える。そして楽曲が何よりも素晴らしい。他人との共作5曲を含むアルバム全8曲を手がけるDr.JohnのSongwriterとしての才能が、このアルバムを凡百の、この時代のスタジオ・ミュージシャン大集合の作品との決定的な違いを感じさせている。
洗練されてオサレと思わせておいて、しっかり毒を隠し持っている、流石、百戦錬磨の大人は一味違う。そんな不思議な世界を見事にジャケットに描き出したNeon Park画伯も素晴らしい。
○このなんともいえない世界→City Lights/Dr.John
(Hit-C Fiore)