過剰流動性資金というモンスターが世界中を巻き込み、単なる一時しのぎの政策をあざ笑うかのように猛威をふるっている。
世の中が閉塞感漂う時にはスカッといきたいもの。
Sly & The Family Stoneの“I Want To Take You Higher ”で気合を入れ直してみよう。
この曲とSesame Streetのテーマ曲 は子供の頃から自分にとって元気が出る曲の筆頭である。
このアッパーで生命感に溢れるサウンドは今でも心躍らされる。
Miles Davisも、“Sly”なんて曲を書いたHerbie Hancockも影響受けまくりであったSlyの魅力は何であろうか?
その前にSlyの代表的なアルバムを振り返ってみよう。
『There's Riot Goin' On』というSlyがキメまくり状態で制作されたアルバムでは、その極めて内省的でダウナーなFunkが革新的だった。
またリズム隊が交代し、よりポリリズム的要素が強化された『Fresh』は自分が一番好きな作品である。
そこで上記2枚に先立つ彼らの4枚目のアルバムである『Stand!』はどうか。
この作品こそジャンルを超越したSlyの“気持ちよければ何でもアリ”的な自由な感性の最良の形での結晶なのである。
持ち前の親しみやすいメロディーと楽天的でシニカルでもある力強いメッセージが結びついて強力なパワーを放っている。
James Brown、JB'SがハネるRhythmの繰り返しと極太のウネリに気持ち良さを追求していた頃である。
この2人がFunkを作り上げたと言っても過言ではないと思う。
キャラクター的に天然に見られるSlyは幼い頃からGospelを歌い、音楽理論を学んで複数の楽器も演奏できた早熟の音楽人間である。
DJやProducerもやっていた人だけに非常に音楽的に引き出しが多く次から次にアイディアが飛び出してきたのだろう。
自分も多くのDJの知人や友人をいつも羨ましく思うのはジャンルも年代も超越した発想の自由さである。
ベイ・エリアのBeatlesやサイケやR&BやPOPSがミックスされたシーンの中でSlyの感性は磨かれたのだろう。
人種も性別もごちゃ混ぜのSly & The Family Stoneというグループが結成され、グループが最高潮の状態を迎えようという姿を捉えたのが『Stand!』というアルバムである。
このグループを支えたもう1人の要、Larry Grahamも勿論重要であるが、メンバーの一体感が作り上げる紫の煙が漂うウネリは、後の完成されたFunkにはないアッパーなエネルギーを解き放っている。
『Stand! 』は69年の作品。
アルバムタイトル曲“Stand! ”の後半の転調部分はSlyの優れたDJ感覚がなければ生まれなかったであろう。
この時期のSlyらしいPositiveなVibeが感じられる自由賛歌。
歌のそこかしこに感じられるGopelっぽさも歌詞に合っている。
“Don't Call Me Nigger, Whitey ”はTalking Modulatorが印象的な、タイトル通り強力なメッセージが込められている曲。
“I Want To Take You Higher ”にみなぎる高揚感、グループ名のごとく一丸となったファミリーが時代の寵児として躍り出る迫力が感じられる。
Partyというか、自分はこの手のお祭りFunkは大好きなのである。
“Somebody's Watching You ”は、こういうメロディーを書けるのがSlyの才能である。
そしてシニカルな視点を持った詩人としての才能も感じさせられる。
“Sing A Simple Song”は歌詞はお気楽であるが、バンド・アンサンブルは匂いたつほどFunky。
この作品を録音中にSlyがDrugにまみれキメキメ状態でありながらも、メンバーはリーダーの意図を汲み、まだ強固な一体感で迫ってくる。
個人的に、このアルバムで一番のお気に入り曲。
“Everyday People”はシンプルな歌詞と一般受けするメロディー。
実はユートピアのような世界の中にも存在する様々なエゴや矛盾を受入れ、わりきって力強く生きていこうとするSly。
人間の心理の本質に迫るような歌詞は結構深いような気もする。
Hit-C Fiore