↑The Fence/Harold McNair(B&Cレーベル) ↑ドイツ盤
JazzやR&BやRockやBlues、Tradやジャマイカ音楽、インド音楽といった様々な音楽が入り混じりながら、Hipで刺激的な音楽が作り出されていくのが英国音楽の素晴らしさである。
特に様々なジャンルのミュージシャンが出入りしながら形成されていった60~70年代初頭の英国の音楽シーンの魅力は格別で、今聴いても本当に刺激的だ。
そして、その英国音楽の伝統を継承して、じっくり醸成された渋いけれどなんとも芳醇な音楽は、現在でも輝きを失わないエバーグリーンなものだ。
とりわけ、互いに刺激しあいながら黒人音楽に影響を受けた英国独自としか言いようのない音楽が育まれ進化していったのは素晴らしいことだ。
Georgie Fameが3月のBen Sidranとの来日公演 で“Georgia On My Mind”を歌った時のこと。
曲の紹介する際に、その昔、この曲を歌うSpencer Davis Group時代のSteve Winwoodの歌声を聴いた時に感銘を受けたという話をしてくれた時に、「名人は名人を知る」という言葉とともに、この時代の英国音楽シーンの充実ぶりを強く感じてしまった。
Harold McNairはそんな時代にジャンルを超越して活躍したのが知る人ぞ知るマルチ・リード奏者。
短い期間ではあったが、色んなジャンルに実に印象深い作品を残して、あっという間に黄金時代を駆けぬけていった。
英国にはJimmy HastingsとかMel Collinsというジャンルを越えて活躍するマルチ・リード奏者がいるが、McNairは、その先駆者だろう。
Harold McNairはジャマイカのKingston生まれで主にイギリスを中心に活動した人だ。
多くのジャマイカ出身の素晴らしいミュージシャンを輩出したAlpha Boys School出身。
以前に記事にした Rico Rodriguezやブリティッシュ・ジャズ界に歴史を残したJoe Harriott やMilesも認めたTrumpeterのDizzy Reeceもこの学校の卒業生だ。
Harold McNairはDonovanの数々の名作で素晴らしいFluteを披露している。
この辺の作品が実は一番耳にしている人たちが多いのかもしれない。
Donovanのアレンジャーであり、ライブラリー・ミュージック方面で活躍したピアニストで作・編曲家であるJohn Cameronの作品でのMcNairの輝きに満ちたプレイは特にお気に入り。
Cameronのカルテットでの69年の作品『Off Centre』や、Ken Loach監督の『Kes』のサントラ盤はHarold McNairなしでは成立しないといってもいい。
John Martynの『Tumbler』やDavy Grahamの『Large as Life and Twice as Natural』といった、個人的に大好きな、極めて英国的な作品に参加している一方で
Blossom DearieやJon HendricksやZootのFontana盤にも参加しているのがMcNairのスゴイところだ。
ちなみに以前に記事にした Cressidaの2ndにも参加している。
『The Fence』はB&Cレーベルに残されたMcNairの70年の作品。
“Hipster”というキラー・チューンを生んだアルバムや、Ornette Colemanのところからベースとドラムを借りてMcNairのインプロヴァイザーとしての実力が発揮された『Affectionate Fink』、John Cameronと組んだ『Flute And Nut』に比べれば、どちらかといえば地味な作品かもしれない。
McNairにとっても代表作ではないかもしれないが、英国風情が出た味わい深い作品として個人的には大好きな作品である。
ノン・クレジットだがSteve Winwoodがオルガンを弾いているのがキモだ。
とにかくWinwoodとRick GretchのBlind Face組、Terry CoxやDanny ThompsonというPentangleのリズム隊,
Geogie FameのThe Blue FlamesのギタリストのColin Green、それに加えてKeith Tippettというメンツだけで,
鳥肌モノである。(WinwoodとGretchはMcNairともどもGinger Baker's Airforceのメンツでもあるが)
Alan Branscombeというブリティッシュ・ジャズ界のセンス抜群のピアニストまで参加している。
メンツは派手だが、甘さを抑えた、むしろ何回も聴いて味わい深さが増していく渋い音楽だ。
マルチ・リード奏者としてFluteにSaxに活躍するMcNairのソロを生かすべく他のメンバーがバッキングに徹した大人の音楽である。
Bahama時代にCalypsoも演奏していたというMcNairのジャンルにとらわれないフレージングが素晴らしい。
元々は英国に古くから伝わるTradだったという“Scarborough Fair”やBeatlesの“Here, There And Everywhere ”
といったお馴染のナンバーもイージーに流される事なく、共にJazz Waltzで渋くアレンジされている。
特にオルガンのイントロでFluteの奏でるテーマで終わる前者は英国情緒に溢れた出来。
アルバム・タイトル曲“The Fence”はMcNairのオリジナル曲。
ナイトクラブが立ち並ぶLondonの通りを夜風に吹かれて闊歩するような男伊達なテーマがカッコイイ。
Tony Carr のCongaがイイ味を出している。
男気あふれるSaxと後半に登場する切れ味の鋭いFluteの対比が素晴らしいがFluteとオルガンのソロが短いのが残念。
Rick Gretchのペンによる“True Love Adventure ”はまるでTrafficといった英国的なクールでどこか哀感を漂わすジャズロック。
とにかくSaxが素晴らしいが、Winwoodのオルガンのソロがあれば(それじゃ、まんまTrafficだって)。
4ビートと16ビートを行ったりきたりする“Early In the Morning ”はTradをアレンジした曲で、この曲もTrafficのインスト・ナンバーを髣髴とさせる。
McNairはGilles Petersonがとりあげた事によってクラブ方面で再評価されたらしいが、何はともあれ、この作品が最近CD化されたのは喜ばしい事だ。
確かにフロアで大音量で聴いたら最高の音楽である。
CDのジャケットはオリジナルのように袋付きとはいかなかったが、久しぶりに聴くとやっぱりイイ。
子供の頃にはTrafficのインスト・ナンバーの魅力がサッパリわからなかったのが、年を重ねて色んなジャンルの音楽を聴き続けて、やっと理解できるようになった。
この辺の音にドップリはまっていたのを思い出す。
Hit-C Fiore