年末に買った「庭の桜、隣の犬」はストーリーは面白いが表現がいまいち
と思ったけど、この作品は表現(心理描写・情景描写)もストーリーも良く、
一気に読み進めました。
この小説は人との別れや出会いが多いこの時季に、そして女性、特に
主人公達と同世代の30代の女性にオススメです。
これは単なる‘友情’ものとは異なります。「人と関わるとはどういうことか?」
ということを問いかけているのだと思います。
葵の思春期また小夜子の30代半ば特有の心理状態がとてもよく描かれて
います。不安・不満・希望・期待…。
それにしても角田さんの作品は余りにもリアリティのある描写が多いので、
読んでて心がヒリヒリします。
私は葵と小夜子と重なるところがあるので、中でも葵の高校時代の場面は
過去の自分を思い出し、かなり心をえぐられました。
結局葵と小夜子は人付き合いが不器用なんですよね。私も小中高時代は
特にそうでした。
皆に都合良く合わせることがなかなかできず、顔色をうかがい恐る恐る
付き合い、自分の本音を出し素をさらけ出せる相手がいず、とても辛かった
のです。
なので、うまく立ち回れる人が羨ましかったし、恨めしかった。
私と葵が違うのは、葵にはナナコが居たことです。
「大勢の友達より一人の親友」がいた方がよっぽどいいしそういう存在が居た
というだけでも、葵もナナコも孤独でなく、救いがあったのはましではないか
と思います。
「もしあたしが無視とかされても、アオちんは別になんにもしないでいいよ。
みんなと一緒に無視しててほしいくらいだよ、そのほうが安全だもん。
だってあたしさ、ぜんぜんこわくないんだ、そんなの。
(中略)そんなとこにあたしの大切なものはないし」
このセリフ、泣けますねー。こんな事言ってくれる素敵な子がいたら、
私の人生変わってたのに…。
葵とナナコ2人の生活は彼女達なりに辛い事があっにせよ正に青春時代だった
訳で、青春ってやっぱりキラキラ輝いてて儚くて、それがいいんだなー、
と実感しました。
学校・職場・家庭・地域…人が生きていく上で人付き合いというものは
一生付きまとってくる。
付かず離れず互いを尊重し、しがらみのない、損得計算無しの関係を
誰とでも築いていけたら一番いいのだけれど、それが一番難しい。
年を重ねるにつれ人付き合いがどんどん面倒で厄介なものに思えてくるし、
慎重で臆病になるけど、それでも素敵な出会いを期待するものである。
「なぜ私達は年齢を重ねるのか。生活に逃げこんでドアを閉めるためじゃない、
また出会うためだ。出会うことを選ぶためだ。
選んだ場所に自分の足で歩いていくためだ。」