これまた中古盤をジャケ買い。
Tangerine Dreamのリーダー Edgar Froeseの2ndソロ・アルバム。
草や木や花といった植物のジャケットは数あれど、このジャケットは自分でも
相当、お気に入りの一つ。
しかし最近、再リリースされたCDでは、オリジナルの素晴らしい神秘的な羊歯
のジャケットと似て非なるジャケットで肝心の音の方もオリジナルに手を加えた
ものらしく残念である。
ちなみに、Edgar氏は4作目のソロアルバムのジャケットでは何を考えたのか
自分の顔のドアップで迫り購買欲を減退させている。
Tangerine Dreamは子供の頃からSF小説などを読む時にかかせない音楽。
想像力をかきたててくれるシンセサイザーをメインにした幻想的な世界。
目の前には見た事もない風景が果てしなく拡がっていく。
星 新一やブラッドベリを夢中になって読んでいた小学生の頃。
ミニマルに繰り返されるシンセサイザーのフレーズと神秘的に流れる重厚な
Mellotronのハーモニーが空間や時間軸を少しずつ捻じ曲げていく。
ゲルマンの森と湖の奥から次第に拡がっていく硬質で混沌とした圧倒的な音
のうねり。
『Epsilon In Malaysian Pale』はTangerine Dream絶頂期の75年に発表
されたEdgar Froeseの『Aqua』に続くソロ2枚目。
前作でも、水の生音を再合成した音をシンセサイザーと混ぜて上手く使ってい
たが、効果音の使い方が相変わらず素晴らしい。
サンプリングなんてなかった時代にアナログな音の心地よさをシンセサイザー
のミニマルな音に組み合わせて視覚的な音を作り上げていく手腕はさすがだ。
今、世の中にあふれ出ている凡百のアンビエント・ミュージックに比べてみれば
なんと静謐で崇高な世界なんだろう。
1曲目の表題曲はマレーシアの熱帯雨林を音で表現しようとしたのであろうか?
密林の中に身を潜める野生動物の鳴き声や列車の音のコラージュが想像力を
かき立て、これから始まるサウンド・スケープに引き込まれていく。
フルートやストリングスを奏でるMellotronの響きと中間部に躍動するミニマルな
シーケンスが心地よい。
“Maroubra Bay”では、力強く、形を変えながら流れていく水のように、溢れ出る
スピリチュアルな響きが作り出す情景が思い浮かぶ。
アルバム全体で、シンセサイザーと前述のSEやMellotronを巧みに組み合わせ
作り出す世界は、幽玄でトリップ感に満ちた独特のものだ。
寒い冬の季節に暖められた部屋の中で、本を片手にあったかい飲み物でも飲み
ながら、この冷涼な音楽を聴くのも悪くない。
Hit-C Fiore