「科学探偵Mr.キュリー3」 喜多喜久 中央公論新社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

体調不良を引き起こす呪いの藁人形、深夜の研究室に現れる不審なガスマスク男、食べた者が意識を失う魅惑の“毒”鍋。

次々起こる事件を、Mr.キュリーこと沖野春彦と庶務課の七瀬舞衣が解き明かす。

今回沖野の前に、かつて同じ研究室で学び、袂を分かった因縁のライバル・氷上が現れた。

彼は舞衣に対し、沖野より早く事件を解決してやると宣言した!

 

 

※ねたばらしがあるのでお気をつけください。

 

 

オビの「無色透明、無味無臭。絶対に検出されない≪毒≫がある。それは――?」という惹句はなかなかに秀逸だと思う。


無色透明で無味無臭、しかも絶対に検出されない毒なんてものが存在するならば、本格ミステリの世界は完璧に崩壊するし、そもそも現実世界でだって完全犯罪が成立してしまうことになる。


ミステリファンならば「おいおいちょっと待てよ」と思い、手に取ること請け合い。
(少なくとも僕は手に取ってしまった)

 

この「完璧な毒」は第四話「科学探偵と見えない毒」に登場する。

 

その毒の正体は重水(じゅうすい)である。

 

水と同じく無色透明で無味無臭、しかし水とは物性や反応速度が異なっており生物には有害だとされているそうである。


人体実験がなされていないのでどの程度の毒性があるかはわからないけれど、摂取したからと言ってすぐに死に至るわけではなく体調不良を起こすくらいのものであるらしい。

(大量に摂取すればもしかしたら病院に運ばれるくらいの症状は出るかもしれない…らしい)

 

これはさすがに殺人事件にはなりそうもないなと、ちょっと拍子抜けしたけれど、このシリーズの良さは「毒の正体は重水でした、チャンチャン」で終わらせないところである。


科学トリックはあくまで物語を彩る要素のひとつであり、その要素を中心にして人間ドラマがしっかりと展開されていくところに、このシリーズの面白さはある。そこが良い。