「あなたは嘘を見抜けない」 菅原和也 講談社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

この真相、絶対予想不可能。
横溝正史ミステリ大賞を史上最年少で受賞した異端児が仕掛けた罠を見抜け。
僕の彼女は「嘘つき」たちに殺された――。
廃墟探索ツアーで訪れた無人島で死んだ最愛の人・美紀。

好奇心旺盛で優しい彼女は事故に遭ったのだ。
僕は生きる意味を喪い、自堕落な生活を送っていたが、美紀と一緒に島にいた女と偶然出会いある疑いを抱く。美紀は誰かに殺されてしまったのではないか。
誰かが嘘をついている――。
嘘と欺瞞に満ちた血染めの騙し合いの幕が開く。

 

 

菅原和也氏はデビュー以来、わりとハズレなくコンスタントに良質の作品を提供してくれていたので、今回も期待をして読んだ。


だが、オビの惹句に期待させられ過ぎて、ちょっとガッカリした感も否めない。
(オビがダメなのは作者の責任ではないのだが)

 

「この真相、絶対予想不可能――。」

 

僕のいちばん嫌いなタイプのオビである。


僕はこれを「何も言っていないのと同じオビ」というジャンルに分類している。


もしも青果店がリンゴにオビ(そんなものは無いが)を付けるとして、「このリンゴは赤いですよ!」と書いたら誰もが「当たり前だろう」と苦笑するだろうに。


「このミステリは真相が予想できませんよ!」というのがどうして売り文句になると思えるのだろう。

 

真相が隠されていて予想できず、最後で読者にあっと言わせるのは、リンゴが赤いのと同じくらい、ミステリとしての大前提なのだがなあ。

 

「廃島を舞台に嘘つきたちの騙し合い。」

 

上記の惹句はただ間抜けなだけだが、オビに偽りあり、と思うのはこっちだ。

 

もちろん犯人は「嘘つき」なのではあるが、他の登場人物たちは記述者(ワトソン)も含め、ただの善意の第三者であり、あとはせいぜい探偵役がその正体を隠しているというだけ。


「嘘つきたちの騙し合い」ではまったくもって無い。


「嘘つき」たちが「廃島」で騙し合うという展開から想像される「デスゲーム系ミステリ」または「多重推理」のいずれでもなく、ごく普通のミステリであった。

(「嵐の孤島」パターンですらない)

 

冒頭から登場人物たちがハンドルネームで呼び合っているので、ここに叙述的トリックが仕掛けられている可能性もあるな…と思ったのだが、叙述トリックでは読者を騙すだけで、「嘘つきたちの騙し合い」にはならないしなあと気づき、打ち消す。


「それはないだろ」と思った方の推測が的中するほど、面白くない結果はない。

 

叙述トリックそのものは「時系列に叙述トリックを仕掛けることで人物を錯誤させる」という、最もありふれたパターンではあるものの、よく練られていて綺麗に決まったと思う。


殺人に関する物理トリックも、とてもグロテスクで非常にショッキング。良く出来ている。

 

叙述+物理の両トリックをうまく組み合わせた、良質なミステリであるにもかかわらず、なぜか読後に「ハズレを読まされた」ような気分になる。

 

それは、タイトルとオビが「きれいにまとまった良質な正統派本格ミステリ」であることを示唆していないからだ。
トンチンカンなタイトルとオビがこの作品の評価を下げているとすればそれは間違いなく出版社(編集者)の責任であろう。