「屋上の名探偵」 市川哲也 東京創元社 ★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

最愛の姉の水着が盗まれた事件に、怒りのあまり首を突っ込んだおれ。

残された上履きから割り出した容疑者には完璧なアリバイがあった。

困ったおれは、昼休みには屋上にいるという、名探偵の誉れ高い蜜柑花子を頼ることに。

東京から来た黒縁眼鏡におさげ髪の転校生。

無口な彼女が見事な推理で瞬く間に犯人の名を挙げる!

 

 

屋上の名探偵

 

 

※ネタバラシします。未読の方はご注意を。

 

 

 

褒めるべきところが正直見当たらない。

キャラクターがダメなので読みづらい。

シスコンのワトソン男子、引っ込み思案の名探偵女子。ベタ過ぎる。

キャラクターが魅力的に描けていればベタでも良いのだが、キャラクターを「描いている」のではなく、ただ単に「書いている」だけ。

あとがきによればこれは彼らの成長物語であるとのことだが、最終話で唐突に彼らが「よーしこれから頑張るぞー」みたいに宣言するだけで、特にこの物語が成長譚であるようには思えない。

鮎川哲也賞の先輩である青崎有吾さんの「裏染天馬シリーズ」も似たような感じだが、こちらは本格ミステリとしてのロジックがしっかりしているのでそこを楽しむことができる。

それにひきかえ。


「みずぎロジック」

 

中葉悠介の姉、詩織里の水着が盗まれた。
シスコン悠介は、蜜柑花子の力を借りて犯人探しに奔走する。
たまたま水着が盗まれた時に地震が発生し、倒れた掃除ロッカーの下に脱げた三年生の上履きが挟まれていた。
水着が盗まれた時間帯にアリバイが無いのは学年で三人。
さて犯人は……?

というところなのだが、結局その三人は犯人ではなく保健室のベッドで寝ていたという詩織里の親友、千賀千歳。
(彼女は同性愛の趣味があるらしい……このへんもベタだ)

アリバイがあったはずの人間が犯人に昇格するのであれば、アリバイが無かった他の三年生全員も容疑者たり得るだろうよ。
せっかく論理的に三人に絞り込んだのに、その枠外から犯人持ってくるんだったらもう本格ミステリじゃねーよ。


「人体バニッシュ」

 

説明が下手過ぎて、状況がまったくピンとこない。
単純に、窓から校舎に入った生徒が校舎内には見当たらず、じゃあまた窓から脱出したのかと思ったけれど窓には全部、内鍵が掛かっていた、ということだけを説明すればいいだろうに、なぜこんなにわけがわからないのだろうか。
建物の構造とか、登場人物の動線を理解するのにへとへとになって、トリックは正直どうでもよくなる。

人間ピラミッドで二階の窓から侵入し、鬘で女子生徒に変装して誤魔化したというのが真相らしいが、ちょっと間違うとバカミスだ。

 


「卒業間近のセンチメンタル」

 

卒業制作を壊したのは誰?というのがこの作品の謎。
容疑者は大勢いるにもかかわらず、勝手に三人に絞り込んでそこから推理を展開する。

「共犯の可能性と、三人以外の誰かの可能性が出てきました」と探偵は言う。
その上で、「それよりももっと無理がなくて合理的な説明ができる」と言い、三人の中から消去法で犯人を炙り出す。

おい待て。
「無理がなくて合理的」ならそれが正解なのか? それでいいのか?
結局、犯人が自白しているからそれが正解でいいのだけれど、それは本格ミステリとは呼ばんぞ。


「ダイイングみたいなメッセージのパズル」

 

ふざけんな、という意味ではこれが一番か。
犯人に怪我をさせられ昏倒する直前に被害者が自らの血で書いたのは「縦棒一本」。
で、これを犯人は必死に消そうとするわけだ。

なんで?
被害者は犯人の名前である「山斗」の書き出しの縦棒を書いたのだけれど、縦棒一本だけで「やばい、山斗って書こうとしている。俺の名前がバレる!」ってなんねーだろ!!
そんなもん消そうとしないで残しておけよ!!

ダイイングメッセージもので傑作と呼ばれる作品など僕は寡聞にして知らないのだが、いつまで経ってもこうして無謀な挑戦を続けるミステリ作家は後を絶たないのだなあ。

あとさあ。
たった四話しかないのにハナシの動機(と事件の発端)が全部「恋愛」ってどうなの?
狙ってやっているならまだしも、何かそれしか思いつかないんじゃないかって邪推したくなるわ。


全体的に「ちょっとミステリにハマってこれならオレでも書けそうって気になった素人が書いたライトミステリ」の域を出ておらず、非常に残念。