「暗黒女子」 秋吉理香子 双葉社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

聖母女子高等学院で、一番美しく一番カリスマ性のある女生徒が死んだ。
今晩学校に集められたのは、彼女を殺したと噂される、同じ文学サークルの「容疑者」たち。
彼女たちは一人ずつ、自分が推理した彼女の死の真相を発表することに。
会は「告発」の場となり、うら若き容疑者たちの「信じられない姿」が明かされていき――。
全ての予想を裏切る黒い結末。

 

 

暗黒女子

 

 

「いわゆるイヤミスというヤツですか?」

 

「そうだな。雰囲気は湊かなえさんの『告白』にとてもよく似ている」

 

「学校という舞台、それから独白。確かに似ているね」

 

「ただしミステリとしての質は雲泥の差……とまでは言わないけど、『告白』のレベルに無いのは間違いないな」

 

「後味の悪さは結構『告白』レベルだと思うけど……」

 

「それは確かにな。でも途中がワンパターン過ぎて飽きる。それぞれが別の犯人を指摘して、『自分は被害者と親しかった。犯人は○○だ』という告発が延々続く」

 

「『毒チョコ』みたいな多重解決ものだと考えれば…面白くない?」

 

「『毒チョコ』に代表される多重解決ものっていうのは、同じ証拠や状況から全く違う推理を導き出すパターンのことだからな。この小説は全然別々のシチュエーションを後から出してきて、『だから○○が犯人』ってやるのは多重解決とは言わんだろ。唯一、証拠として被っているのは、被害者が握りしめていたすずらんの花の解釈だけ」

 

「うーん。確かになあ、多重解決とはちょっと違うか。でもラストは少し意外じゃなかった?」

 

「意外さで言えば確かにそうなんだけど、唐突過ぎてなあ。伏線も何も無いし。衝撃的でダークな作品にするのは簡単だけど、そこに説得力が無いと」

 

「結構、酷評するね」

 

「『告白』以降、『こういうのがウケるんだな』と気付いた作家が多かったようで、雨後の筍みたいにたくさんのイヤミスが書かれてるだろ? こういうブームはあまり好きじゃない。だって『告白』を超える面白い作品はひとつもないからな」

 

「それは言い過ぎじゃあ?」

 

「うーん。まあ言い過ぎかもしれないし『告白』がそこまですぐれた作品だとは思わないけどさ。でもこの作品は『告白』が無くても誕生したかな? 学園という舞台や、独白という形式……雰囲気が『告白』に似すぎているんだよな」

 

「それは確かにね」

 

「後出ししている以上、それを超える作品を書かなくては意味がないよな。ただのモノマネになっちゃうだろ。この作品にはモノマネ以上の何かは無いよ。

もちろん、この作品がツマラナイと言っているんじゃないよ。それなりに読めるものであることは否定しない。

でもね、数多くあるイヤミスの中で、これをあえて選ぶ理由は何もないね」

 

「うーん。キツイ物言いだなあ」

 

「この作家さんはたぶん書けるヒトだよ。だから敢えて高いハードルを跳んでほしいと思うんだ」

 

「なるほどね」