聖母女子高等学院で、一番美しく一番カリスマ性のある女生徒が死んだ。
今晩学校に集められたのは、彼女を殺したと噂される、同じ文学サークルの「容疑者」たち。
彼女たちは一人ずつ、自分が推理した彼女の死の真相を発表することに。
会は「告発」の場となり、うら若き容疑者たちの「信じられない姿」が明かされていき――。
全ての予想を裏切る黒い結末。
「いわゆるイヤミスというヤツですか?」
「そうだな。雰囲気は湊かなえさんの『告白』にとてもよく似ている」
「学校という舞台、それから独白。確かに似ているね」
「ただしミステリとしての質は雲泥の差……とまでは言わないけど、『告白』のレベルに無いのは間違いないな」
「後味の悪さは結構『告白』レベルだと思うけど……」
「それは確かにな。でも途中がワンパターン過ぎて飽きる。それぞれが別の犯人を指摘して、『自分は被害者と親しかった。犯人は○○だ』という告発が延々続く」
「『毒チョコ』みたいな多重解決ものだと考えれば…面白くない?」
「『毒チョコ』に代表される多重解決ものっていうのは、同じ証拠や状況から全く違う推理を導き出すパターンのことだからな。この小説は全然別々のシチュエーションを後から出してきて、『だから○○が犯人』ってやるのは多重解決とは言わんだろ。唯一、証拠として被っているのは、被害者が握りしめていたすずらんの花の解釈だけ」
「うーん。確かになあ、多重解決とはちょっと違うか。でもラストは少し意外じゃなかった?」
「意外さで言えば確かにそうなんだけど、唐突過ぎてなあ。伏線も何も無いし。衝撃的でダークな作品にするのは簡単だけど、そこに説得力が無いと」
「結構、酷評するね」
「『告白』以降、『こういうのがウケるんだな』と気付いた作家が多かったようで、雨後の筍みたいにたくさんのイヤミスが書かれてるだろ? こういうブームはあまり好きじゃない。だって『告白』を超える面白い作品はひとつもないからな」
「それは言い過ぎじゃあ?」
「うーん。まあ言い過ぎかもしれないし『告白』がそこまですぐれた作品だとは思わないけどさ。でもこの作品は『告白』が無くても誕生したかな? 学園という舞台や、独白という形式……雰囲気が『告白』に似すぎているんだよな」
「それは確かにね」
「後出ししている以上、それを超える作品を書かなくては意味がないよな。ただのモノマネになっちゃうだろ。この作品にはモノマネ以上の何かは無いよ。
もちろん、この作品がツマラナイと言っているんじゃないよ。それなりに読めるものであることは否定しない。
でもね、数多くあるイヤミスの中で、これをあえて選ぶ理由は何もないね」
「うーん。キツイ物言いだなあ」
「この作家さんはたぶん書けるヒトだよ。だから敢えて高いハードルを跳んでほしいと思うんだ」
「なるほどね」