医師の父、美しい母、高貴なまでの美貌を振りまく双子・梨花と結花。
非の打ち所のない雨宮家で家政婦として働く幸子は、彼らを取り巻く人間に降りかかる呪われた運命に疑念を抱く。
そして、ある「真相」にたどり着いた幸子は、留守番電話に悲痛なメッセージを残すが……。
最恐のストーカー・リカ誕生までの、血塗られたグロテスクな物語。

「このシリーズの前作、前々作は読んでる?」
「『リカ』『リターン』な。読んでるよ」
「リカ、怖かったよね」
「心霊現象なんかよりも一番怖いのはやっぱり人間だよなってのをつくづく感じるな」
「リカは人間っていうよりもほとんど怪物だけど(笑)」
「で、本作はその怪物がどうやって誕生したかの物語」
「シリーズ読んでないと何が面白いかまったくわからない作品だね」
「リカのことを知らなかったら、それの誕生譚なんて読んだところで意味がないからな」
「田舎から出てきた素朴なお手伝いさんがエロオヤジとヒステリックなおばさんとわがまま娘に翻弄されるだけのお話だもんね」
「珍しく毒を吐くな?」
「だってさあ、最後まで読んで、ほんとガッカリしたんだよ」
「あ、ネタバラシするのか?」
「する。未読の方はここからを読まないでね」
「梨花という、まるでどこかの国のお姫様のように傍若無人な少女が出てくるな。普通に読んだらこの少女が、のちにリカになるのかなとまずは想像する」
「そうだね。でも、梨花には双子の妹である結花がいるんだよね」
「結花は万事に控えめで、お姫様のような梨花の従者みたいなもの。梨花に憧れる結花がもしかして『リカ』になるのか、という想像もできるよな」
「うん、こういう控えめな少女が心の奥底に邪悪なものを秘めていて、『姉の梨花のようになりたい』という想いが高じて怪物になるというパターンはありがちだからね」
「まあ、そのどんでん返しもありがちとは言え、効果的に使ったら面白かったかもしれない」
「でもさ、途中で」
「そう、途中で結花は大病を患ってその影響で、まるで骨と皮の暗い表情の、実年齢よりも老けた外見になっちゃうんだよな」
「そう。これってまるでリカの見た目そのものだもん」
「ここでそんな布石があるってことは逆に、結花はリカではないのかな、って思った」
「そうそう。そうすると、意外や意外、物語の視点役をつとめてきたお手伝いさんの幸子が……とまで想像した」
「そうだったらなかなかに意外で面白い」
「でもねえ、まさか」
「まさか」
「結花がそのまんまリカになるって」
「わかりやす過ぎだろ」
「ずっとシリーズを読んできている人なら、結花があの外見になってしまった時点で『この子がリカに?』って思う。名前が『リカ』じゃないからってそんなもん関係ないよね」
「作者としては『梨花って名前の少女がリカじゃなくて、結花の方なの??』ってびっくりさせたかったのかもしれないけど、誰がびっくりするかそんなもん。分かりやす過ぎるわ」
「シリーズ読んでない人なら、あの外見になっても気が付かないかもしれないけど……」
「その場合は最初に言った通り、面白くも何ともない作品になっちゃうからな」
「そもそも登場人物にまったく魅力がないんだよねえ」
「最終的に被害者になる両親やお手伝いさんの誰も好感が持てないから、死んだところで同情もできない。お手伝いさんの幸子は性格は良いんだけど、最後が……残念すぎる」
「そうだよねー。すでに危険だってわかっている屋敷になんで戻ってくんの? 死んで当然だよ。自分からわざわざ死ににいってるようなものだもの」
「素朴というよりもはやバカだこれは」
「第一作はかなり名作の部類に入る面白さだったのに、それが売れたことで調子に乗ったね」
「シリーズの一作目だけが面白いってのはよくあるパターンだからな」
「リカはまだ死んでいないみたいだけどもうこれ以上このシリーズは書かないでほしいなあ」
「でも、リカが明らかに人間を超えた生命力を持った怪物である理由はまだわかってないぞ。結花はこのままだとただのちょっとイカれた殺人鬼でしかないからな」
「いや、それは作者も説明する気ないでしょ。って言うかたぶん説明できないし」
「リカが説明のつかない怪物って言うならそれでもよかったんだ。わざわざ生い立ちを書いちゃうから『なんでただの人間があんな超人になったの?』って疑問が出てきちゃうんだぜ」
「だからって、もうリカの物語はいいよー。お腹いっぱいです(笑)」