あなたは絶対にこの「結末」を予測できない! 新時代到来を告げる、驚愕の暗黒ミステリ。
かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。
祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。
彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を、あえて手にかけたのか……。
日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作ほか、悲劇をひき起こさざるを得なかった女たちを端整な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す全五篇。
※ねたばらしを含みますので未読の方はお読みにならないようにお願いします。
「許されようとは思いません」
かつて祖母が暮らしていた村を訪れた「私」。
祖母は同居していた曾祖父が村人たちに迷惑をかけていたせいで、村八分にされていた。
そんな祖母は、曾祖父を殺害し、村十分にまでなっていたのだが、なぜ病で余命いくばくもなかった曾祖父をわざわざ殺す必要があったのか……?
それがこの短編の謎である。
お年寄りが可哀想なお話、正直苦手なんだよねえ。
最終的には何となくいい話みたいになっているけれど、
自分を迫害し続けた村に、死んでまで居続けたくない。
そんな思いで、殺人を犯し、村の墓地に埋葬されることを避けたという真相は……あまり後味が良くないね。
「許されようとは思いません」「終りがねえものはおっかねぇ」というお祖母さんの言葉は伏線になっているのはウマイと思いました。
「目撃者はいなかった」
仕事のミスで資材の受注数を10倍に間違えてしまった男。
それを隠蔽するために、まずは客先の社員を装い、10倍の量の資材を運送屋から受け取る。
(当然、代引きの代金は自腹だ)
その後、正しい量の資材を、今度は運送屋に化けて客先に渡す。
これで一件落着かと思ったら……。
これはとても巧い。
良く出来ている話だなあと思った。
交通事故を目撃した男。
実は加害者だと思われている方が信号を正しく守っていたことを知っているのは彼だけ。
だが、彼はそのとき運送屋を装っていたのだから、名乗り出るわけにはいかない。
そんな中、彼のもとを加害者(だと思われている男)の妻が訪れ、夫の無実を証明してほしいと訴え出る。
よくもまあ、スゲー早さで彼にたどり着いたなあ(フツーはさすがに無理だろ)と思わなくもないが、
そこを無視すれば、因果応報という言葉がぴったりのオチも含め、構造が美しい。
男は別の事件(放火)の容疑者に仕立て上げられるのだ。
もちろん男は放火などしていないし、別の場所にいたことを証明も出来る。
しかし、それを証明するということは……。
ロジック自体はありがちなのだが、普段営業成績が悪く叱咤させられているダメ社員が取ってきて大口受注がただのミスで、
それを隠蔽するための小細工が奇妙な展開になっていくという……そこが巧いですね。
物語の導入からぐっと読者を引き込んでいきます。
こういうの、どうやって考えるのかなあ。
「ありがとう、ばあば」
雪の日に、孫にベランダに閉じ込められてしまう祖母。
最初は可愛いいたずらかと思っていたら、孫はいつまでたっても鍵を開けようとはしない。
このままでは間違いなく凍死してしまう。
……なぜ。
アイドルを目指す少女が得た「身内が死ねば年賀状を出さなくても良い」という知識が伏線。
アンファンテリブルは結構好きなんだけど、ちょっとあっさりしているかな。
「姉のように」
何でも教えてくれて、いっしょに遊んでくれて、大人になってからも自分の目標であり指針であり理想であった姉。
その姉が事件を起こした。
周りの人たちは一見何も変わらないようだが、自分は「犯罪者の妹」として見られているのではないかという疑心暗鬼に捉われる。
育児もうまくいかない。
でも、もう相談相手だった姉はいない。
……少しずつ狂気に染まっていく主人公。
最後に読者を待っていたのは、何と叙述トリックでした。
トリックそのものはありきたりだけれど、まさかの叙述トリックでちょっとビックリ。
伏線もしっかり張ってあって巧く出来ているなあと思いました。
「絵の中の男」
凄絶という言葉がぴったりな絵を描く、天才画家の妻。
技術は高いが平凡な画家の夫。
妻が夫を殺害するという事件が起きる。
しかし、本当に起こったことは何だったのか。
はたして、真実は?
なぜ妻は夫を殺したのか……というホワイダニット。
自らの芸術を自完璧にするために娘を焼き殺した「地獄変」に通じる物語かと思わせるが、
その実、そこに隠されている真実はまるで逆であったというところが面白い。
芥川を読んでいるとその対比としてさらに面白く読めるかも。