極秘来日していたオノコロ国のトップが〝暗殺〟された。
自首したのは、衆議院議員の息子で創薬研究をする大学院生・一臣だった。
しかし彼には動機がまったくなく、殺害方法の供述も二転三転する。
一臣を操るのは、オノコロからの美しい留学生・ニキか、かつて一臣と愛し合った義妹・多佳子か。
〝彼女〟の心の底にあるのは、正義感か復讐心か。
※物語の内容に触れています。未読の方は回れ右で。
政治家を父に持つ大学院生の一臣。
あまりにもステロタイプではあるが、父親は息子を後継者にしたいと考え、
息子はそれを拒み、学者への道を進もうとする。
そんな背景があって、その一臣が所属する研究室に、オノロコ国からニキという女性がやってくる。
一臣はニキの指導係に指名され、さらに、今まで研究していたインフルエンザウイルスの研究から、
マラリアの研究チームに移動させられる。
ニキは祖国でマラリア蚊が不自然なほどに発生している現状を何とかしたいと思い、
その研究チームに配属されたことを喜ぶ。
同時に、民主主義国とは思えない独裁政治が行われているオノコロを憂うニキは、
オノコロの首相が病気治療のために来日することを知り、彼に直訴したいと、
一臣に首相の行動日程を教えてほしいと頼む。
ニキの頼みを断りきれない一臣は父親の秘書をつとめている妹に久しぶりに会う。
そして、一臣とニキが首相の泊まるホテルを訪れた後に、
大統領(首相と勘違いしていたが実際に来日していたのは大統領)が不審死を遂げる……。
……この展開から想像するに、
国際問題をはらんだ復讐劇だの、陰謀だの、スケールの大きな話になりそうな感じなのだが、
(僕は首相が何らかの理由でマラリア蚊を国内に持ち込んだのでは…とか思っていた)
まったくもってそんなことは無い。
大学の研究なんてこの後のストーリーにまるで関係は無いし、
そもそもオノコロ自体がほぼどうでもよくなる。
大統領が殺されたのは、父親を失脚させて代々政治家を排出している家に縛られたくない妹の策略で、
ニキはこの後、登場することもない。
マジか。
いやいや。
仮にも一国の首相が殺されているのに国際問題に発展することもなく、
なんだかふんわりした感じであいまいに終わる。
看板だけが大きくて、中がすっからかんという印象。
理系ミステリのような始まり方をして、途中から国際政治を背景にしたスケールの大きなミステリになるのかと思わせ、それらの設定を全部無かったことのようにして終わるという。
広げた風呂敷はちゃんと畳もうよ。