佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。
どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。
左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。
そして、僕と佳奈。
友情じゃなく、もっと特別ななにか。
ひりひりして、でも眩しい、あの夏。
「サマータイム」は三人が出会った夏の物語。
いっつもキリキリしているような佳奈ちゃんが可愛いなと思った。
きらきらと煌くような、夏の思い出。
彼らは佳奈がつくった海の味がするミント・ゼリーを食べ終えて夏を終わらせてしまったことを感じとる。
夏ってとても不思議なもので、ああ、夏が終わってしまうとは誰でも思うけれど、
春や秋や冬だとそんなこと思わない。
夏の出会いってなんだか特別な気がする。
可愛らしいボーイミーツガールの物語。
「五月の雨」では佳奈が一人称になる。
きりきりかんかん、ちょっとしたことでもヒステリーを起こす五月のつつじのカーナ姫の物語。
彼女には彼女にしかわからない大事なものがあって、
彼女はそこに触れられるとかんしゃくを起こすのだ。
他人から見たらただの我がままにしか見えないところが、彼女の不幸だけれど、
彼女の中にはきっと守らなくてはいけない大事なルールがあるのだろう。
「九月の雨」は進と佳奈と別れて引越しをした広一の物語。
広一は不幸だ。
父親を亡くしたことや、自分も腕を失ったことや、
そのことでピアノが満足に弾けなくなったことが不幸なんじゃなくて、
そのせいで年齢の何倍も大人にならなくてはいけなかったことが。
十六歳っていうのは子供じゃないけどそんなに大人じゃない。
「ホワイト・ピアノ」は十四歳になった佳奈が主人公になる。
マイ・フェイヴァリット・シングズという言葉はいいね。
「私のお気に入り」。
佳奈がセンダくんを表現するのに一番ぴったりくる言葉だと思う。
そしてこの言葉は佳奈みたくお姫様のような女の子が使うのが一番似合っている。
『義理でもないけど、LOVEでもないの。あなたは、マイ・フェイヴァリット・シングズだと思う』