ベストセラーを生産するための機械にとりつかれた作家。締め切り二日前にくだらないアイディアばかりが浮かんで悶絶する作家。出身地のサイン会で次々と奇妙なファンに見舞われる作家。
ミステリアスな「作家」という職業に挑む作家だらけの連作短編集。
※ねたばらし満載です。未読の方はご注意を。
「書く機械」は作家さんにとっては切実じゃないですかね。
オチとしてはまあ、ありきたりでそれほど面白いものではないですけど。
「殺しにくるもの」のオチもありきたりといえば、そうかもしれない。
作家が理解されずに逆上して連続殺人を犯すっていうのは、
ミッシングリンク物としては意外な内容だが、現実味はないよね。
「締切二日前」は実際の有栖川有栖さんのネタ帳から出来た小説に違いない。
しかし実際には使えないクズネタを集めて話を作ってしまうという手法には恐れ入った。
それとも、本当に締め切りに追われてこんな小説を作ったのか?
いや、そうではないと信じよう。(というか、信じたい)
それにしても作中で主人公のミステリ作家が、ダイイングメッセージ物やつまらない雑学のトリックを徹底的に否定しているがこれって自虐的なギャグなのか?
「奇骨先生」はこの短編集で一番のお気に入り。
作家、本屋、出版社のみならず、出版に関係するお仕事をしている人たちには全員読んでほしい。
出版界とはそんなものか、という衝撃は僕にとっても大きかった。
「サイン会の憂鬱」はドラマ「世にも奇妙な物語」で使われそうな話だなあ。
夢オチ以外のオチがついていればもっと面白かったのに。
「作家漫才」は関西人の有栖川有栖さんらしい一作。
「書かないでくれます?」は恐怖小説としてはなかなかのヒット。
タクシーが出てきたところでラストはすっかり読めてしまうが、
そこにたどり着くまでのプロセスに恐怖がある。
「金魚の稚魚かと思っていたらそこに角が生えて…」というネタはちょっと怖い。
さらにいえば作中作の「成長の記録」は実際に書いても長編としていけるかもしれない。
有栖川有栖さんの作風じゃないとはいえ、こういうのを作中作として惜し気も無く使えるのはすごいな。
「夢物語」は美しい。
「物語」の存在しない世界で、売れない作家が古今の名作を語るというのは悲しいけれど美しい。
なかばお遊び、なかばパロディ的なこの作品群を締めるラストに相応しい一作。