「柩の中の狂騒」 菅原和也 角川書店 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

希少な「透明標本」を所蔵する孤島の博物館を訪問した9人の男女。

そこには「悪魔」が展示されているという。

集まった参加者を待ち受けていたのは、突然の荒天と惨劇の幕開けだった。

迎えのボートは明日の朝。閉じ込められた孤島の屋敷内で、孤島の主人の生首が密室内で発見される。


柩の中の狂騒 (単行本)



※ねたばらしを含む感想です。未読の方はお戻りください。




孤島に建つ洋館。


狂人と噂される変わり者の主人。


この古典的本格ミステリ全開のシチュエーションに、男女合わせて9名が乗り込んでくる。

彼らの目的は、透明標本の世界ではかつて権威と言われ、「悪魔」の透明標本を作製したために学会を追放された根室正志の新作。


自称フリーライターの柚木。


銀座でギャラリーを営んでいるという多々良。


この透明標本博物館の管理人である笹岡。


推理作家の榧ヶ原と、担当編集者の梅田。


美貌の元写真家、麻生。


大学生の三人組、芹沢、小杉、桐谷。


彼らが到着してほどなく、当主の根室の死体が「密室」で発見される。


「死体」と言っても発見されたのは根室の生首だけで、密室の中とは言え、どう考えても他殺としか思えない。


だが……ほとんどのメンバーが初対面。どう考えても根室を殺害する理由はないように思える。


はたして、根室を殺害したのは誰か……?




と、ここまでは本格ミステリの世界。


ここからはドタバタ悲劇。いや喜劇?



多々良は銀座でギャラリーを営んでいるというのが嘘で、殺人で指名手配されている逃亡犯。


警察を呼ばれたくなくて何とかそれを阻止しようとするけれど、勢いあまって探偵役の榧ヶ原を殺してしまう。


榧ヶ原を崇拝する梅田は復讐のために多々良を傷つけ、手負いになった多々良は梅田を殺害。


三人の大学生はそれぞれの三角関係がもつれて、芹沢に片想いの小杉が二人を殺害してしまう。


多々良は柚木に正当防衛で殺され、多々良を捕らえるために、根室の「新作」を利用した柚木が許せずに彼を襲った笹岡は麻生に殺される。



「密室」も「トリック」も「本格」も何も関係なく、物語は単なるスプラッタホラーと化す。


まさにタイトル通りの「狂騒」が繰り広げられるわけだ。



結果、生き残ったのは柚木と麻生の二人。


柚木はこの事件を題材にした作品がヒットし、念願だったライターになれる。


だが、今一緒に暮らしている麻生に対して漠然とした不安を消すことができない。


結局この事件は、何のために起きたのか。


最初の事件(唯一のミステリ的殺人)の犯人は?


エピローグである程度の謎解きがなされているが、それでも何だかすっきりしない思いが残る。



真実は誰にもわからない。