「トラップ・ハウス」 石持浅海 光文社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

大学卒業旅行としてトレーラーハウスでの一泊のキャンプを計画した男女9人。

だがドアを閉めた瞬間、トレーラーハウスは脱出不能の密室と化した。

混乱のなか1人が命を落とし、悪意に満ちたメッセージが見つかる。

次々と襲いかかる罠を仕掛けたのは、いったい誰か?

果たして生きてここから出られるのか?

本格ミステリーの原点に立ち返った著者の新たなる傑作!

トラップ・ハウス (光文社文庫)



石持浅海さんの作品で最初に読んだのは、


「扉は閉ざされたまま」


でした。



デビュー以来、閉鎖空間での殺人というシチュエーションにこだわってきた石持浅海さんの持ち味が、


十全に発揮された秀作だと思います。


探偵役と犯人の火花散るような頭脳戦がこの作品の一番の眼目であることは確かですが、


「歴史的価値のあるドア」という小道具がとても秀逸だと僕は思うのです。



中で人が死んでいるかもしれない。


でも実際はただ寝ているだけなのかもしれない。


そういう微妙な状況で、高価なドアを破壊して中に入ろうとする人間はなかなかいない。


そういう心理的な枷がこの物語を複雑なものにしているのです。



さて。


一方で、この「トラップ・ハウス」はどうでしょうか。


トレーラーハウスに閉じ込められた9人に、脱出しようという気概が全く見られないんですよね。


そこがどうにも違和感があって……不自然だなあと思いました。


確かに、窓ガラスは頑丈で、ドアはノブが削り取られているため開かなくなっている。



でもさ。


とりあえず、人が死んでるんですよ?


それから、アタマ打って痙攣しちゃっている人もいるんですよ?


おまけにトラップが一時間毎に発動するわけですよ。


呑気に敵のメッセージの意味なんか解読してないで、まずは脱出でしょ。


せめてトラップを探そうよ。一時間毎に大慌てするんじゃなくてさ。



「扉は閉ざされたまま」では部屋の中の様子を推理する以外に方法がなかったわけです。


殺人事件が起きていることも認識はされていなかった。


だから、そこで推理合戦が展開されるのは必然でした。



一方、本作では優先されるべきことは推理ではなく、まず「脱出」ですよね。


それをたいした工夫も努力もせずに放棄し、推理ゲームに興じている彼らは何なんですかね?


友人が一人、そこで死体になっているというのに。



実際、彼らが切羽詰って脱出しようとしたら、結構簡単に脱出できてしまったわけですよ。


いやいや。なんでそれを最初からやらないの?




どれほど彼らがロジカルに「敵」の正体と動機を推理したとしても、


「こいつらバカなんじゃねーの?」という印象は消えないんですよね。


だって、どんなアホでもまず脱出でしょ。


「敵」の正体なんか、それからゆっくり考えればいいんじゃないの?



そうでなければ、推理なんか全部放棄してとりあえず寝ちゃえば?


だって「敵」は全員を皆殺しにするような「仕掛け」は用意していないのがわかっているんだし、


翌日になれば間違いなく助けがくる(管理人が見に来る)ことが保証されているんだから。



そのへんがまったく論理的でない連中が、どれほど推理を積み重ねてみても、


説得力なんてゼロに等しいんですよね。



動機や論理の飛躍、犯人の行動がブレまくっているところなんかは石持作品のお約束で、


そこに不満があるのならば石持浅海さんの作品は読むべきではないというのはわかっていますよ。


今回は、それだけじゃなくて、シチュエーションに無理があり過ぎるので、辛かったですよ。



ラストの「やっつけで終わらせました感」も読んでいてつらかったし……。



まあ、あと付け加えるとするならば、画鋲の攻撃って地味に痛いよね。ってことかな。