埼玉県越谷市某町―絵に描いた様に平和な新興住宅地であるこの町の住民の多くは、ある人物を師と仰ぐ集団の「門下生たち」によって占められていた。
彼らは師亡き後も、その清廉な教えに恥じぬよう行動し、なんとか結束を保っていた。
目覚めぬ遺児「御子」をめぐり牽制し合いながら…。
しかし、かつて御子の生命を救った異端の研究者の死で、門下生たちの均衡は破れた。
「私たちこそが、御子をいただくのにふさわしい」三つに分裂した各派閥によって始まった、熾烈な後継者争い。
立て続けに起こる、凄惨な第二の死、第三の死。驚愕の真犯人が、人の命と引き換えてまで守ろうとしたものとは?
奇抜な状況設定における人間心理を、ひたすらロジカルに思考するミステリー界のトリックスター、石持浅海が放つ渾身の書下ろし長編。
何か、物語すべてが、設定とキャラクター説明だけで終わったような感じがする。
それだけみっちりと語られたというのに、
まったくこのコミニュティの意味が理解できなかったのはなぜか。
僕がおかしいのか。
特殊なコミニュティ内での事件という点で、
「月の扉」や「水の迷宮」などの系譜と言えないこともないが、
この作品の設定は一番受け入れ難い。
不思議なカリスマ性を持った人物に心酔し、彼の周りに人が集まるというところまではいい。
ホントはそれだって、引っ越しまでするかよと思うのだけど、まあいいことにする。
問題なのはそこから先だ。
その人物が死んでしまった後も、そのコミニュティの覇権を争って、
多くの大人たちが水面下で火花を散らしているのがまったく意味がわからない。
そのコミニュティでリーダーに収まったからと言って、何のメリットもないのだよ。
金銭的なメリットはもちろんのこと、名誉も名声も何もない。
町内会のお祭りで、神輿の上に乗る、くらいの名誉はあるのかもしれないけれど。
そんなわけだから、その後に起こる事件も何もまったく理解できない。
石持作品はたいてい動機が理解できないのだけれど、この作品も同様だ。
まったく面白いと思えない。