鳥羽湾に浮かぶ本郷島が舞台となった大ヒットアニメーション映画 「鹿子の夏」のイベントを開催させるべく、島を訪れた5人。
イベントに賛成している島民たちと話し合いを進めている矢先、メンバーの一人が他殺体となって発見される……。
解説によれば、本書の連載前、石持浅海はこんな風に言っていたそうだ。
「これまではわりと毛色の変わったものを書く作家として認識されていたと思うので、今後はベタなものも書いていきたいですね。ベタでもちゃんと水準のものを書けると認識されたい」
その言葉通り、本書はわりとベタなミステリである。
石持浅海お得意の、心理的または物理的な閉鎖空間は発生していないし、
(島全体がクローズドサークルとも言えなくはないが、広範囲過ぎて閉鎖感はない)
殺されるのもたった一人、イベントスタッフのうちの若い女性だけ。
「御子を抱く」では、ほとんど宗教かというような異様なサークル(?)が登場したが、
本作でのサークルは、アニメファンがイベントをやるという至極現実的な集まり。
今回の謎は「誰が彼女を殺したか」という純然たる「フーダニット」と、
さらに言えば「顔見知りのいない島」に「仲の良いメンバー」同士できたのになぜ、という「ホワイダニット」の二つである。
本当にまっとうなミステリと言える。
殺人事件の起こる前夜、宿の前に首のねじ切られた「鹿子」のフィギュアが捨てられており、
これは「鹿子」と瓜二つのアヤが殺害されるという予告か、という演出もあったりして、
設定に凝っていた過去の作品と比較すれば、ずいぶんと石持ミステリの色が薄れている。
とは言え、
たまたま同じ宿に居合わせた釣り客が、冷静新着かつ頭脳明晰で探偵役になるという、
石持ミステリ定番の探偵キャラクターは登場するし、
犯行動機も「なんじゃそりゃ」という感じだし(アンモラルなところも石持ミステリの特色)、
読めばこれは石持作品だなあとわかる。
どちらかと言えば、僕はこういうオーソドックスな方が好みだし、
最近の奇想天外な石持作品には辟易していたので、
まあよかったとも言えるのだけれど、
そのぶん、印象は薄いよね。どこにでもある当たり前のミステリだこれは。