僕――中央(あたりあきら)――は、大学院に通いながら、元世界チャンプ・英雄一郎先生が経営する、良く言えばレトロな「ビリヤードハナブサ」でアルバイトをしている。
ビリヤードは奥が深く、理論的なゲームだ。そのせいか、常連客たちはいつも議論しながらプレーしている。いや、最近はプレーそっちのけで各人が巻き込まれた事件について議論していることもしばしばだ。
今も、常連客の一人が会社で起きた不審死の話を始めてしまった。
いいのかな、球を撞いてくれないと店の売り上げにならないのだが。
気を揉みながらみんなの推理に耳を傾けていると、僕にある閃きが……。
この店には今日もまた不思議な事件が持ち込まれ、推理談義に花が咲く――。
第二十四回鮎川賞受賞作。
今年も鮎川哲也賞受賞式に出席してまいりました。
昨年はお会いできなかった有栖川有栖先生とも今年はお話することができて、とても満足。
毎年毎年同じことを感じますが、
ホント、神様の饗宴ですよこれ。
誰一人知り合いがいないのに、全員知っている人ばっかりという、この摩訶不思議な状況。
戸川安宣様、本当にどうもありがとうございます。
戸川さんご自身が僕にとって神様のような存在ですけれども、
毎回、他の神様方に引き合わせてくださることに心から感謝いたします。
(有栖川有栖さんの奥様まで紹介されたのにはさすがに少し焦りましたが)
僕にできることは、一冊でも多くの本を売ることしかありません。
本当に、そういう形でしかご恩返しができないのですが、
僕の神様たちが生み出された作品を、一人でも多くのお客様に大切に届けます。
さて。
受賞作品の感想ですが。
品が良くまとまっている作品だなあと思いました。
すごく書きなれているというか、文章がこなれている。
雰囲気をつくるのが巧いし、混乱なく、必要な情報が正しく読み手に伝わってくる。
プロの作品と言われても、違和感は覚えないでしょうね。
トリックそのものは単純だし前例もあるようなものばかり。
だけど、それの見せ方は巧いと思いますね。
新鮮味はないけれど、物語の中で違和感なく使われていて好感は持てる。
ただ……やっぱり、連作短編というのは鮎川哲也賞に似つかわしくないように思えてしまうなあ。
もっと本格に寄った長編ミステリが読みたい。
それから、北村薫さんが、
「ビリヤードと謎の繋がりが知的に処理されている」
と仰っており、近藤史恵さん、辻真先さんも同様に評価されているのだけれど……、
正直、僕はそこが今一つだと思ったんだよなあ。
これ、別に舞台がビリヤード屋さんじゃなくても成立するのでは……?
それから。
この雰囲気のミステリだったら無理に殺人事件を入れる必要あるかな?
日常の謎の方がこの作者さんには合っているような気がした。
他にも気になるところはいくつかあるのだけれど、
とは言え、リーダビリティが高いのは事実だし、応募作品としては相当レベルが高いと感じました。
今後に期待、ですね!