「人影花」 今邑彩 中央公論新社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

見知らぬ女性からの留守電、真実を告げる椿の花、不穏に響く野鳥の声…ささいなことから平和な日常が暗転し、足元に死の陥穽が開く。

戦慄に満ちた文庫オリジナル短篇集。

没後なお読者を惹きつけてやまない今邑ミステリの精華がここに。


人影花 (中公文庫)


今邑彩さんの新刊はもう読むことはかなわないのですが、


こうやって短編集への未収録作品をまとめてくださる方がいると、本当にうれしいですなあ。


(さすが、日下三蔵さん! 大感謝!)



「私に似た人」


出逢いは一本の間違い電話から……というようなロマンティックな話ではない。


戦慄のオチが待っていますよ。



「神の目」


盗聴を利用してストーカーしている相手に対して「オレはいつでも見てるんだぜ」的な脅しをかけるというのはサスペンスではよくある展開。


現実にもこういうことあるのかしらん、とか思っていると、


そこから一捻りしたオチが用意されていて、ちょっとビックリします。



「疵」


この短編集で一番のお気に入りで、一番怖かったのがこれかな。


幽霊とか妖怪のハナシで、


「ソイツはこんな顔だったかい?」って振り向くと、その顔がソレだったみたいなのは多い。


(何言ってんだかよくわからない方は……まあ無視してください)


この短編にもそういうシーンがあって、


それがまた意外な相手だもんだから、けっこう怖かった。


オチも狂気がイイ感じに溢れてて……うすら寒くなりましたよ。



「人影花」


身体の不自由な夫を支える貞淑な妻。その妻が夫を捨てて逃避行へ。


だが……本当に妻は自由になりたかっただけなのか?


庭にある井戸に近づくことを夫が異様に嫌がるのはどういうわけだ?


物語は二転三転し、もしかしたらもっともあってはいけないかもしれない結末を迎える。


ラスト一行でさらりと真相を書いているのが味ですよね。


「椿」が小道具として物語を彩りながら、さらに物語全体を支配していく感じも抜群に巧い。




「ペシミスト」

「もういいかい……」


今邑彩さんってショートショートも書かれていたんですねえ。


「もういいかい……」は今邑彩テイスト全開。


「ペシミスト」の方は作者名を隠されたらたぶんわからないなあ。



「鳥の巣」


今邑作品には、ホラー要素を取り入れたミステリも多いですが、これはもう完全にホラーと言っていいでしょうね。


現実と幻の境い目がどこかわからなくなります。


すなわち、それは正気と狂気の境い目がわからなくなるということ。


こういうの書かせたら、今邑彩さんはホントに巧い。



「返して下さい」


ひょー。こえー。


自分の身に同じことが起こったらって思うと、ますますこえー。


物語は読者に結末を委ねる形で終わるけれど……良い想像ができる人はたぶんいないよなあ。



「いつまで」


これはなんだろうなあ。


いい話っていうか、感動系の話として読めばいいの?


まあ、そうなんだろうなあ。