「幻視時代」 西澤保彦 中央公論新社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

文芸評論家の矢渡利悠人、彼の高校の後輩にして小説家のオークラ、編集者の長廻の三人は、立ち寄った写真展で、ある一枚の写真の前に釘付けとなった。
18年前の大地震直後のその画面には、瀕死の恩師・白州先生と大学生の悠人、そして一人の少女が写っていた。少女の名は風祭飛鳥。悠人の同級生であり、淡い初恋の相手…。
しかし、大地震の4年前に起きた「女子高生作家怪死事件」の被害者で、この時すでに死亡していたはず!?
心霊写真なのか? いや、飛鳥が生きているのか!?
22年の時を超え、悠人ら三人が超絶推理の末、辿り着いた迷宮入り事件の全貌と、驚愕の真相とは!?


幻視時代


西澤ミステリにしては、


人はたった2人しか死なないし、


つじつま合わせの強引なロジックもないし、


人が簡単に記憶喪失になったりもしないし(笑)、


愚にもつかない動機で人殺しをしたりしないし、


いやーなんかひさしぶりにまともなミステリを読んだなって思いました。


ちゃんとしたのも書けるんじゃん、西澤保彦さん。



(これ、誉めてないよなあどう考えても)



「境界線」というアマチュア作家の未発表原稿が巡り巡って皮肉な運命をたどる仕掛けやそのプロセスも巧いし、


風祭飛鳥という少女のキャラクターも立っているので、


これは起こるべくして起こった事件なのだとすごく腑に落ちるし、


特にラストに添えられたエピローグがいい!



物語の後半は西澤保彦お得意の「毒チョコ」パターンだけれども、


論理を飛躍させ過ぎないで丁寧に議論しているから、それも退屈せずに読むことができた。



全体的に大風呂敷を広げ過ぎないで「丁寧にロジックを積み上げたな」という感じの作品。


こういうのは結構好きだ。