大学生の透は恋の極みにいた。
年上の詩史と過ごす甘くゆるやかなひと時、世界はみちたりていた。
恋はするものじゃなくおちるものだ。
透はそれを詩史に教わった。
一方、透の親友・耕二は、女子大生の恋人がいながらも、蠱惑的な喜美子に夢中だった。
彼女との肉体関係に…。
夫もいる年上の女性と大学生の少年。
東京タワーが見守る街で、二組の対極的な恋人たちが繰り広げる恋愛小説。
本作は黒木瞳さんの主演でずいぶん昔に映画化され、
当時はなかなかヒットしたようだ。
僕は観に行っていないし、観たいとも思わなかったので面白いかどうかはよくわからない。
黒木瞳さんはとても美しい女優さんなので、
映像的にはきっと素敵な映画になっていたのではないかと思うのだが。
ただ、ひとつ想像していることは、
おそらく映画のストーリーは小説と全然違うのではないかということ。
だって、これをそのまま映画にされたら、観客は困ってしまうだろう。
それくらい、おそろしく退屈な物語だと思った。
一人称の透と耕ニはいかにもスマートそうに見えるが、
二人とも単なる愛欲に溺れたどこにでもいるアタマの悪そうなお子さまたちだ。
彼らがだらだらと怠惰な日々を暮らしている様子が書かれているだけで、
これのどこが面白いのかさっぱりわからなかった。
一人称がコロコロ入れ替わるのも、
最初の五十ページくらいまではなかなか馴れずに読みづらかった。
ストーリー自体には何の内容もない作品であってもキャラクターの魅力だけで十分物語として読めてしまう場合もある。
しかし、本作の場合、登場人物に欠片の魅力的もないので、
読んでいてもさっぱり物語の中に入り込めなかった。
読み終わった後にこれを面白いと思えるのはどういう人たちなんだろうと考えた。
本書が出版されたのは2001年。
バブルの残り香はほとんど消えてなくなっていて、
薄っぺらいことが格好良いと思われていた時代は終わっていたと記憶している。
それでも、やっぱり、
一見オシャレに見えて、実は中身は何もないからすごく読みやすくて本を読んだ気になれる
という本を好む人っていうのはいつの時代もいるものなのだろうか。